第53話 暗躍~ロバートの視点編~
第二庁舎警務隊本部。ドミルセーエフ市の中でも特に重要なスタンティヌス区の警備・治安を司る最重要施設。ここに俺が会うべき人物はいる。彼の協力無くして今回の企ては成功しない。
「ガルシアヌス警務少佐にロバートが会いに来たと伝えてください」
まるで旧知の友が訪ねてきた風を装いながら受付のお姉さんに話しかける。彼女は一瞬驚いた表情をしていたがすぐにガルシアヌス少佐を呼んできてくれた。
――ガルシアヌス・アルケリオス。名門氏族であるアルケリオス家の現当主であり警務隊警備監補の地位にある彼の協力なくして今回の作戦は成功しない。
「おぅ、ロバートよく会いに来てくれた。心から歓迎するよ!」
五分後。奥から軍服をスマートに着こなした壮年の男性がやって来た。彼こそガルシアヌス警務少佐である。
「ガルシアヌスも元気そうだな。どうだ。君の部屋で昔話でもしないか?」
打合せ通りの会話を一言一句間違えないようにしながら話す。計算高くて野心家の彼のことだ。きっと夜寝る前にセリフを暗記してきたのだろう。
「もちろんだロバート。嬉しいよ。さぁ、こっちへ!」
そして、俺はガルシアヌスとともに奥の部屋へ向かった。
――ガチャ!
部屋に入るなりガルシアヌスは執務室の鍵を締める。
「ようやく始まるな。ロバート」
「そうだ。ドラガゼスが君の父上から奪った元首の地位を取り戻す瞬間がな」
「ふっ――。そんなあからさまに言わないでくれ。ロバート。どうだ、コーヒーでも飲むか?」
「いや、コーヒーは勝利の美酒ととも味わいたい。麦茶をくれ」
「ふっ――。実に君らしい選択だ。わかった。待っててくれ」
そう言いながら彼は備え付けのミニ給湯室へ向かった。
***
「さぁ、打合せをしよう。まず君が率いる実行部隊だが……」
「警務隊本部付きの全七中隊のうちの第二中隊を使う。元首庁舎にいるドラガゼス配下の護衛兵はたったの十人。まずは一気呵成に攻め込み元首庁舎を支配下に置く」
「奴が進める護衛兵削減政策が裏目に出たな。で、その大義名分は?」
「ドラガゼス元首に対する反乱の鎮圧。ということにしておく。別に理由は後からいくらでも改変できる。大切なのは勝つことだ」
「ふっ――。名武官を多数輩出したアルケリオス家らしい答えだな」
俺はそう呟くと麦茶を一気に飲み干す。氷で冷えた麦茶ほどおいしいものはない。
「警務隊本部の奴等はどうする。君に危害を加えるかも知れんぞ?」
「ご心配無用。スタンティヌス区警備本部監のテルドシウス以下、高級幹部の奴等はドラガゼスに不満をもっている。奴の身に何が起きても率先して助けるようなことはしない。もちろん消極的干渉くらいはあるだろうが、それは想定の範囲内だ」
「市政トップの不在による混乱を収束させるための警務隊本部の台頭。警務隊主導の臨時政府の設置。そして、救国の危機に手をあげる名門氏族現当主のガルシアヌス・アルケリオス。完璧だな」
「これはロバート、君の入れ知恵だろ?」
「はっはっはっ――! 最後に忘れるなよガルシアヌス。俺が欲しいのはドラガゼスが保持している紫錫司のマントだ。それはいただくぞ」
「もちろんお好きなように。その代わり私の天下になった時の市政には口出し無用だからな」
「好きにすればいい」
俺は君とは違いもっと先の事をイメージしている。それに君は政治家ではない。はたして名君との覚え高いドラガゼスの市政を越えることができるかな。市民の不満が高まった時、きっと君は対外政策に目を向けるだろう。あとは俺が少しまた手を加えれば――。
「では、よろしく頼むぞ。ガルシアヌス元首よ」
「クックックッ……。止めろ。ロバート。まだ早い。作戦開始は夜十二時。その瞬間が楽しみだ」
「ガルシアヌス。君は実行部隊を完璧に掌握してくれよ。これから起こる出来事は歴史になる」
「ふっ……。任せておけ」
ガルシアヌスは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。




