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第44話 続・隊長の恋⑦

「――!?」


「どうしましたハヤシマ先生マダム御飯ライスが冷めますよ。早く席に着いてください」


「え、えぇ……」

 彼女は動揺を隠せていない。何とかして平然を取り戻そうとしてはいるのだが、目の動きまでは隠せていない。


「や、やるわね。それにしてもまさかあの短時間でこれほどの御馳走ディナーを用意するとは。で、でも……。味はどうかしら。生徒達は午前中の農業研修で疲れ果てているのよ!」


先生マダム。心の瞳を開けて前を見てください」

 とっさにワカミヤ料理長がそう諭す。


「前を見ろって――。ハッ!?」

 その時、彼女は刮目かつもくした。どの生徒も眩しいくらいの笑顔のフラワーを咲かせながら料理を楽しんでいる。嫌な顔なんてしていない。その光景はまるで楽園そのものだった。


先生マダム。あなたがわざわざ味見をしなくても目の前の光景で結果はわかったでしょう?」


「たしかにそのようね。見事よ料理長。ユキオス君もごめんなさいね。私はあなた達の正義ジャスティスを信じていなかった。でも、目の前の光景で私は知ったわ。この農場が西部一のグルメ農場だということにね!」


「そのようなもったいないご評価をいただけて恐悦至極きょうえつしごくでございます。大変畏れ入ります先生マダム

 そう言い終わるとワカミヤ料理長は恭しくお辞儀をした。


 ***


「今日はありがとうね。私も含めて生徒一同とても素晴らしい時間を過ごさせていただきました。理事長にもこの事は誠意をもって報告させていただきます。もちろん料理長の魅力もね」

 夕方の帰り際、ハヤシマ先生は笑顔でそう言った。なぜかその表情は輝きに満ちている。


「いえ、そんな……。こちらこそ至らぬ点が数点ありその件に関しては誠に申し訳ありませんでした」


「また来させてもらいますからね。あっ、何か協力できることがあったらすぐにでも言ってね」


「はい。なら――。あっ!?」

 その時、俺は忘れていた重要な事に気がついた。早くヒカリちゃんの事を先生に聞かないと!


「ハヤシマ先生。一つ教えてください。今日、ヒカリちゃんは農業研修には来てないのですか?」


「ヒカリちゃん……。それってもしかしてヒカリ・ソラウミさんのことかしら?」


「フルネームまでは知らないけど、たぶんそうだと思います」


「彼女は今、休学中よ。たしかサンクト・ペルニアス島に三ヵ月間の予定で語学研修に行ってるわ」


「えっ――!?」

 サンクト・ペルニアス島といえばお金持ちがここぞとばかりに集まる島である。文学・芸術振興の島とも言われ、魔界一の文豪『ニソサブロウ二郎ジロウ・フォン・オオユキ』が青年期に過ごした島としても有名である。


「じゃあ今日は農場研修に来てないんですね……」


「残念だけどそうよ。なんだかごめんなさいね。ちなみに彼女は来月帰国予定だから。もし運が良ければ次の農業研修で会えるかも知れないわね」


「……。期待しときます」

 俺はガックリ肩を落としながらそう言った。この事実を隊長が知ったら悲しむだろうなぁと心の底で思いながら。


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