第43話 続・隊長の恋⑥
ワカミヤ料理長の登場により食堂内の状況が一変した。
「ドリーは盛り付けを。ポールンはサラダを。ワッコイは唐揚げを揚げてくれ!」
料理長の適格な指示がパートタイマーゴブリン達に飛ぶ。その声を聞いたゴブリン達はここぞとばかりに厨房内を動き回る。
「さすが料理長。しかし、まさかこれほどまでとは……」
「驚くのはまだ早いぞユキオス。料理は準備に始まり準備に終わる。この意味がお前に分かるか?」
「えっ――」
突然の料理長の問いに頭が真っ白になる。
「ふっ――。なんだ、言えないのか。ユキオス、迷いは捨てろ。もはや一刻の猶予もないんだぞ。よし、今だ。共に駆け抜けるぞ。付いてこい!」
「はい――!」
二人はほぼ同じタイミングでキャベツを千切りにしていく。料理長の千切りは均等に形が整えられていてまるで一種の芸術作品のようですらある。それに比べて俺のキャベツの千切りは……。
「なに、悔やむことはない。お前のキャベツ愛は俺が一番よく知っている。料理道は一日で完遂するものではない。俺を越えてみろユキオス。その高みに昇りたいと願う気持ちこそが運命だ!」
「――はい!」
その時、二人の気持ちが一つになったような気がした。
***
食堂には美しく盛り付けられた食事の数々が並ぶ。その光景はまるで美術館に来たようだ。
「皆よくやった。上出来だ。これで生徒達を食堂に招き入れることができるだろう」
まるで達観したかのような表情で料理長はそう言う。
「ワカミヤ料理長さすがです。あなたのリーダーシップがなければこの短時間での料理準備なんてできませんでした」
「いや、そんなことはないぞユキオス。まさに皆の努力の賜物だ。おぉ、そうだ――。ゴチウスよちょっとサラダドレッシングを持ってきてくれ」
「へい、料理長」
パートタイマーゴブリンのゴチウスはそう言うなりドレッシングが入ったボウルを手渡す。
「うむ、この味だ。まるでボルゴズバラナス・ヤーチバール風味の世界感が口の中に広がるようだ。本当に君にこの大事な任務を任せてよかった。ありがとう」
「そんな料理長……。謙遜しますぜ!」
ゴチウスは照れ笑いを浮かべながらそう言った。
「ところでユキオス。生徒達は今どこへ?」
「生徒達ですか……。え――と、予定表を見ると今は幕僚談話室で町衣紋さんを講師に迎えての質疑応答中ですね」
「そうか。なら少し時間に余裕があるな。どうだ、ワインでも飲むか?」
「えっ――。良いのですか?」
「もちろんだ。業務用冷蔵庫にフルルンゴール産の白ワインを用意している。少し早いが開けるとしよう」
「料理長。それはまだ早いのではないですか。我々の目的は生徒達に料理を提供することでしょう?」
「ふっ――。言うようになったなユキオス。どうだ、俺と一緒に働かないか。お前のキャベツの千切りなら共に世界を目指せるぞ?」
「料理長。誠に申し訳ありません。俺には暗黒騎士という夢があるのです」
「そうか、お前なら出来るさ。応援しているよ」
「ありがとうございます。精進します!」
その時見た料理長の微笑みが俺に勇気を与えた。




