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第42話 続・隊長の恋⑤

 スタスク・ボリジャー・ワカミヤ料理長。彼は今年で五十三歳を迎える経験豊かな料理人である。高級ホテル『サポーファンファル・コンスタンチン・ルッツ・オラール・チョイバルサゴン』で磨きあげられたその超絶テクニックは他の追随をまるで許さず、柔らかいその物腰の豊かさと相まって彼の名声はうなぎ登りである。普段は隣町の七星セブンスターレストラン『ボブ&ワカミヤ&ゼンゴロウ』で統合総料理長とうごうそうりょうりちょうを努めているらしいのだが、時折うちの農場宿舎食堂に来てもらっている。いわば非常勤の料理長という訳だ。

 ワカミヤ料理長が携わる料理は味の魅力が高く農場スタッフの心を食の面から癒してくれている。


 ***


 隊長と別れて十三分ほど経っただろうか。俺の目の前には純和風建築の豪邸がある。ここがワカミヤ料理長の自宅だ。


 ――トントントン!

 ドアを三回ノックする。こんな豪邸にも関わらずインターホンがないのはエイプリルフールの冗談だろうか――。


「こんにちは――。魔界大根農農場幹部スタッフ兼暗黒歩兵のユキオスです!」


「……」

 何も応答がない。


「こんにちは――!」


 ――ガチャ……。

 ドアが開き眠たそうな男が出てきた。間違いない。ワカミヤ料理長だ。


「どうしたユキオス。俺は今、夏期休暇の真っ最中なんだが……」


「突然の訪問申し訳ありません。実は今、食堂の人手が足りないもので……。今日、出勤してもらえませんか?」


「そうは言ってもな……。今、自分探しもしているし風邪も引いているのだ」

 ワカミヤ料理長はよくわからない理由で俺の申し出を断ろうとする。


「隊長もあなたの活躍に期待していますよ。だからぜひ!」


「うむ、なら一つ条件がある。ジャラルトスミクニンクスの妙薬を一つ分けてくれんか。実は前に貰ったのを切らしてしまったのだ」


「ジャラルトスミクニンクスの妙薬ですか。たしかまだ研究室に在庫があったはずです。その件は隊長にも伝えときます」


「そうか。なら頼むぞ。うむ、それなら仕方ない。行くとしよう」

 ワカミヤ料理長はニヤリと笑いながらそう言った。


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