表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/199

第38話 続・隊長の恋①

 ――ガガガガ……。ゴゴゴゴ……。

 まだ早朝だと言うのに耳に刺激を与える騒音が聴こえる。俺はこの音で眼が覚めた。


「なんだよ、朝早々……。こっちはヤーサナ・フールの件で疲れてるんだ。もう少し寝かせてくれ」

 カーテンを開けて音のする方向を確認する。どうやら庭の方で工事をしているようだ。


「あぁ、そうか。そう言えば数日前に隊長が庭に倉庫を造るって言ってたな。今日工事スタートか」

 カレンダーを見ながら俺はそうつぶやく。あと一時間もすれば食堂で朝礼が始まる。もう起きなければと思い俺は立ち上がった。


 ***


「みんなおはよう。これより早朝スタッフミーティングを始める。みんな知ってると思うが今日は魔王立西部魔法実用農業高校一年C組の生徒がうちに農業実習にくる。彼らは眩しいくらいに純粋だ。そして、農業意欲に溢れている。魔界大根の生産態勢及び品種別改良作業の成果を見せてやれ」


「夜の町の遊び方を教えてもいいんですかい?」

 とっさに町衣紋まちえもんさんからそんな質問が飛ぶ。


「絶対にダメだ。さっきも言ったが彼らは眩しいくらいに純粋だ。まだ夜の町を知る必要はない。農業を教えてやれ」


「なら弓の使い方は?」


「それもダメだ。彼らは弓の使い方を学びにここに来るのではない。魔界大根の極意を学びに来るのだ。その事を忘れるなよ」


「へいへい」

 不満そうな顔をしながら町衣紋さんはそう言った。


「生徒達がうちに来るのは午前十時だ。それまで各事農業実習の指導手順を確認しとくように。では解散。午前九時半に宿舎前に集合。それまで皆は自由に過ごしてくれ。それとユキオスよこの後、隊長執務室へ来てくれて。ちょっと話がある」


「えっ……。あぁ、わかりました」


 ここで今日の早朝スタッフミーティングは終わった。



 ***


「ユキオス来てくれてありがとう。まずは先日の魔界イノシシの生態調査大変ご苦労であった。そんな君の実力を見込んで今日は頼みたいことがある」

 真剣な瞳を俺に向けながら隊長はそう言う。しかしいったいなんのことだろう。恐らく今日の農業実習に関連することだとは思うが……。


「君はヒカリちゃんを覚えているか?」


「ヒカリちゃんって隊長が恋をした女子高生ですよね」


「そうだ。実は君に手紙を出してもらってから何の進展もないのだ」


「はぁ――。それで?」

 まったく隊長は今年で41歳だろう。恋をするにしても相手が若すぎる。もしその恋が成就したとしても相手方の親御おやごさんが交際を許してくれるかどうか……。まぁ、恋に年齢は関係ないとはよく言うが。


「それでだな、実は今日そのヒカリちゃんがうちに農業実習に来るのだ。その時、勇気を出して話しかけようと思っているのだが勇気がなくてな。ユキオスよ協力してくれ」


「いや、隊長。眩しいくらいに純粋な彼らは農業を学びに来るんじゃ……」


「ユキオスよ。恋と仕事は別だ。それにもし俺の恋がうまくいったら君を第二級功労魔界農業士だいにきゅうこうろうまかいのうぎょうし推薦すいせんしようと思っているのだが……」


「――!?」

 その時、俺はあまりの衝撃で声が出なかった。

 第二級功労魔界農業士というのは魔界で農業を営む者にとって憧れの存在であり次の出世への登竜門である。この地位に認定されることによって魔王立上級科学農業アカデミーへの道が開けうまく行けば魔王様の廷臣ていしんになることだって可能である。そして、もし魔王様の廷臣になれば……。そのコネクションを使ってもしかしたら憧れの暗黒騎士になれるかもしれない!


「隊長その話本当ですよね――。恋が実ったら俺を推薦してくれるのですね?」


「もちろんだ。この業界で働く者は絶対に嘘はつかない」


「了解です。隊長の恋の橋渡し役として存分に動き回りましょう!」


「うむ、その言葉を待っていたぞ。では、打ち合わせに入ろう――。まずは……」


 その後、二人は念入りに打ち合わせを重ねた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ