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第3話 仲間が行方不明

 最近、俺が働く農業に新しい悩みが出来た。職場の同僚のロバートさんがルバンガの町の隅っこに行ったきり帰ってこないのだ。隊長は「放っとけ。どうせ旅にでも出たのだろう」と言うが、俺にはそうは思えない。と言うかここだけの話、ちょっと心当たりもある。やはりラストグレードサンダーデーモンにやられたのだろうか…。それよりも隊長のラブレターはどうなったのだろうか…。


「やぁユキオスさんこんにちは!」

 宿舎の庭で日向ぼっこをしてる最中にいきなり話しかけられた。驚いて起き上がり誰かを確認する。


「だれかと思えばハル君か。今日はどうしたの?」

 ハル君は魔王軍西部方面伝令・通信司令部に勤める若者だ。彼が来るということは司令部から何か連絡があるのだろう。


「今、隊長さんいる?司令部から命令書が来てるんだけど」


「あぁ、隊長?今、地獄大根を栽培してる畑にいるよ。うちの農場にパートタイマーで働きに来てるゴブリンさんと一緒に草刈りしてるよ。俺が代わりにもらっとこうか?」


「それがダメなんだ。この配達証明書に隊長の印鑑いんかんかサインがいるんだ」


「そうかぁ…」


「ところでユキオスさんは草刈りに行かなくてもいいの?」


「あ、俺?俺は今日、この宿舎を守る当番なんだ」


「え?今あなた日向ぼっこしてませんでした?」


「ハル君、それは気のせいだよ。今、庭に寝転がって上空監視をしてるんだ。ほら、勇者様御一行が空から攻めてくるかもしれないだろ?」


「……。まぁ、そういうことにしときます。私は隊長に会いに農場に行ってきますね」


「うん!それじゃあね!」


 こうしてハル君は畑に向かった。


「さて、もう少し日向ぼっこ…。いや、上空監視をしとこうかな。今日は雲ひとつない良い天気だし!」


 気がつくと俺は夢の世界へと旅立っていた…。


 ***


「ユキオス君、君はそこで何をやってるんだね?」

 この言葉で私は目が覚めた。ふと体を起こし前を見るとそこにはゴルヌス隊長とゴブリンさん御一行。辺りはすっかり暗くなりもう夕方ゆうがたがきたようだ。


 しまった!あまりにふかふかの芝生の上が気持ち良かったので寝過ごしてしまった。


「た、隊長?私は今、上空監視をしてました」


「上空監視?空から何かが来るのかね?」


「勇者が攻めてきたりとか…」


「まぁ、そんなことをどうでもいい。自分の信念を貫き通せ。それよりも君に頼みたいことがある。昼間に伝令官のハル君が来たのは君も知ってると思う。まずはこの司令部からきた命令書に目を通してくれ」

 そう言うと隊長は俺に一枚の紙を差し出す。


「その紙を見ながら聞いてくれ。今、ラストグレードサンダーデーモンのフランソワちゃんが家庭の事情と思春期で反乱を起こしてるのは知ってると思う。彼らラストグレードサンダーデーモン一族は我ら魔王軍にとっても貴重な戦力なのだ。君にはフランソワちゃんの説得に向かってもらいたい」


「えっ!?しかし俺の実力で何とかできる相手ではないような…。ラストグレードサンダーデーモンといえばRPGで例えると最終ダンジョンに出てきそうなヤツですよね?それに明日は私が魔界大根に水をやる当番ですし…」


「魔界大根と農場のことは私とゴブリン達に任せときなさい。それに私はべつにラストグレードサンダーデーモンと戦えと言ってるのではない。君の役目はあくまで説得であり交渉なのだ。よろしく頼む」


「はぁ…。了解しました」


「では、良い結果を期待しておるぞ。おぉ!そうだ!ベンじいを連れて行くと良い。彼は闇魔法剣術やみまほうけんじゅつのスペシャリストだ!」


「は、はい?ベンじい??誰ですかそれ?初めて聞く名前ですけど」


「ベンじいはその名をベントマス・ファンタゴマス・ジールコール・フルモンティヌスという。彼は第3次暗黒魔界頂上決戦を闇竜師ダークドラゴンマスター七賢者と共に生き抜いたスペシャルな強者つわものだ。いにしえの闇魔導上級ダークナイトであり、禁断の古代封印魔法の超秘術ちょうひじゅつ奥義おうぎを知るファーストファイナルレジェントでもある!」


「おぉぉ!!なんですかその偉大でカッコいいプロフィールは!!まさかこの近くにそんなスゴイ人がいるとは…。それにしてもファーストファイナルレジェントってなんなんです?あと第三次暗黒魔界頂上決戦って何?私、初耳なんですけど?」


「そんなものは知らん。べつに深く考えなくてもいい。ユキオス君、世の中には知らなくてもいいことがたくさんある。まぁ、とりあえずベンじいはスゴイ人なのだ。彼を連れていけば百人力ひゃくにんりきじゃろう」

 隊長は空を大きく見上げながら感慨深げな様子で一言そう言った。


「わかりました。あまり深く考えないようにします。それでそのベンじいは今、どこにいるのです?」


「たしかベンじいは今、この近くのニコニコパン屋さんで働いている。近くに行った時に一声かけてみてくれ」


「えっ!?そんなスゴイ人がパン屋さんで働いているのですか?」


「ベンじいは魔界年金が少ないからな。たぶん老後の生活費が足りないんじゃろう。まぁ、それじゃあよろしく頼むよ」


「この世界にも年金があるのですね。はぁ……。なんかよく分かりませんが了解しました。明日、夜明けと共に出発します」


 こうして俺はベンじいと共にラストグレードサンダーデーモンのフランソワちゃんの説得に向かうことになった。


 ***


「よし、暗黒歩兵専用ソードも持ったし行きますか!」

 次の朝、俺は意気揚々と農場を出発した。目指すはルバンガの町の隅っこにいるラストグレードサンダーデーモンの反乱陣地。最初はとても不安だったけどものすごい経歴をもつベンじいがいる。このことだけでもとても心強い。


 俺は暗黒歩兵専用ソードをしっかりさやに入れて歩きだした。

 とりあえずベンじいが働いているパン屋に行ってみよう。


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