第35話 破壊指令!魔弍空兵備装ヤーサナ・フール③
膠着状態が続いてから一時間ほどが立った。相変わらすヤーサナ・フールは強力な超高高出力聖磁場フィールドを周囲に展開している。
「うむ、打つ手がないな」
「そうですね」
もし、あれが攻撃手段をもっていたら……。そう考えるだけで恐ろしい。防御兵器で本当に良かった。
「でも、善蔵さんあれは攻撃してこないんでしょう。なら考える時間はたくさんありますよ」
「ユキオスよ勘違いするな。ヤーサナ・フールは防御兵器ではない。あれは本来は統合全装フィールド高拡散周波装置を応用した純攻撃兵器だ。ただどうやら攻撃部分を失ってるようだ。落下した衝撃で分離したんだろう」
「ということは……。もし統合全装フィールド高拡散周波装置が装備されてたら……」
「その先は考えたくもないな。だからこそ今、破壊しなければならん。ヤーサナ・フールを悪用するヤツが出てくる前にな」
「わかりました」
しかし、どうすればいいのだろう。狙撃できる武器がないのだから完全に打つ手かない。
――ゴソゴソ……。ガサゴソ……。
その時、後ろで物音がした。誰かがこちらへと接近してくる音だ。
「誰だ!」
善蔵さんは危険を感じさせるような声で叫ぶ。その声の先には髭を生やした四十代前半くらいの男が立っていた。
「おい、お前たちがユキオスと善蔵さんか?」
その男は特徴的な声で俺達に話しかけてくる。そしてその声には見覚えがある。まさか――。あなたは――。
「もしや……。マチウス・町衣紋大尉でありますか?」
その時、俺は頭に思い浮かんだ『可能性』を口に出さずにはいられなかった。
「ユキオスよくわかったな。君なら俺がここにいる真意もお見通しだろう。そう言えば俺達はお互い同じ農場で働いてるにもかかわらず初対面だろう?」
「いえ、ゴルヌス隊長からあなたの事は聞いています。もちろん聖宮パポスでの秘宝奪還作戦での活躍もね」
「フッ――。過ぎたことを……。隊長も言うねぇ」
町衣紋は恥ずかしそうにしながらそうつぶやいた。
――聖宮パポス秘宝奪還作戦。それは魔界歴1998年に起きた超極秘作戦である。この時の全作戦遂行記録は魔王軍統合総参謀本部、通称『M.T.S.S.H』によって記録封印命令が出されており、作戦の全貌を知るものは作戦に関わった者を含めてごくわずかである。
「ところで町衣紋さんどうして俺達の現在地がわかったんです?」
「ザルトリッチさんに聞いたのさ。彼は君達がいる場所をズバリ言い当てたぞ」
「そうですか。あなたが来てくれて助かりました。実は――」
***
予期してなかった町衣紋の登場と魔弍空兵備装ヤーサナ・フール。この両者の関係は?
そして、この物語は次の展開に向けて加速していく……。




