第31話 隊長の心配事
ユキオスを送り出した後、俺は溜まりに溜まった決裁が必要な書類の山と対峙している。
農場管理者というのは意外と難しい。地獄大根は人気の作物だが、毎年統一された品質を保つのは難しい。それに天候不純になれば不作という可能性もある。
「はぁ――。月末には西部方面農場管理者定例拡大会議もあるし……」
そう思うと考えたり資料作成をしなければならないものがたくさんある。あぁ、考えるといえばユキオスだ。魔界イノシシの調査を命じたのだが、無事だろうか。まぁ百戦錬磨の善蔵さんがパートナーなら心配ないとは思うが……。
――トントン。
静かにドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
誰だろうと思いながらも俺はそう声をかけた。
「隊長、失礼します」
そう言うなり伝令配達官のハル君が入ってきた。彼がここに来るのは久しぶりのことだ。
「お疲れ様。今日は司令部から来たの?
「はい、今日は司令部からの特務命令書を持ってきました」
「ん……。特務命令書――?」
こんな片田舎の農場に特務命令書とは珍しい。勇者迎撃の任に就いている即応魔王親衛軍特務別班ならいざ知らずだが。
「わかった。ありがとう。受け取ろう。サインと印鑑はここでいいかな?」
「はい。では、よろしくお願いします」
そう言うなりハル君は帰って行った。
***
厳重に封印された封書を丁寧に開封する。
「なになに……」
文章を読み進める内に事の重大さが頭の中を支配していく。
「魔弍空兵備装ヤーサナ・フールの発見及び破壊か――。高級参謀のお偉い様方は無茶な事ばかり言う」
ため息を大きくつきながら俺はそうつぶやいた。本当に彼らは卓上の理論だけで物事を語ろうとする。用するに司令部の皆様は現場の状況を知ろうとしてないのだ。そもそもここは中央からかなり離れた農場である。ちなみに我々の純粋な戦力は今現在、俺を含めて三人しかいない。
「まぁ、唯一の幸運はユキオスと善蔵さんがその現場にいるということぐらいか……」
しかし、彼の身が心配だ。俺はここを動けないしロバートさんは自分探しの旅に出てるし……。
「仕方がない。謹慎中のマチウス・町衣紋に応援に行ってもらおう」
そう声に出して決めた俺は足早に隊長執務室を後にした。
***
農場宿舎中庭を抜け独立型地下室へと向かう。もちろんマチウス・町衣紋に会うためだ。彼の弓の腕前はかなりのもので山暮らしで培ったその力量は他の追随を許さない。そんな彼ならきっとユキオス達の手助けになるだろう。
――トントン。
ドアをノックする。
「ようやく謹慎解除かい隊長さん?」
ドア越しではあるが、彼の特徴的な声が聴こえる。
「マチウス・町衣紋。君に任せたい任務がある」
「待ってました。ようやくだな。弓を持ってこい」
自信満々そうな口調で彼はそう言った。




