第30話 魔弍空兵備装ヤーサナ・フール
魔界イノシシ追跡調査を始めて一時間ほどが立った。一応、四十メートルの間隔を維持しながら追跡をしているが時々、見失いそうになってくる。
「ユキオスどうやらワシの予想は外れたようだ」
突然、神妙そうな面持ちで善蔵さんはそう言った。
「えっ――。それはどういう意味ですか?」
「オメェは何も感じないのか。この空気の変化を。ピリピリしている。まるで電気が走り回ってるようじゃ」
そう言われてみてハッとなった。たしかになんかさっきとは違う。そう、この一帯の空間が。
「もしや……。いや、これは確実かもしれん」
「善蔵さん教えて下さい。どういう事なんですか?」
「魔弍空兵備装ヤーサナ・フール」
「――!?」
彼の言葉を聞いた瞬間、全身に衝撃が走った。
――魔弍空兵備装ヤーサナ・フール。ヤーサナ・フールは古代ジャラルファラステ語で磁場転生を意味する古語である。古の民人ムルパッチアーラバシ族の伝承によるとそれは三大天道星器杖の一つである。効力は付近の磁場に強力なフィールドをつくり周り一帯に何人も寄せ付けない聖域をつくりだすことである。
「しかし――。善蔵さんたしかヤーサナ・フールは百年前に聖空王ハーラル率いる天空正道隊が魔王軍親衛天空騎士団と戦った時に失われたはずじゃ……」
「オメェよく知ってるな。そんな事、村の古老でもそんなこと知らんぞ」
「実は農場の古書室で調べました」
「そうか。知識は人を助けると言うからな。おぉ、話を元に戻そう。どうやら今回の事案の原因はヤーサナ・フールじゃ。何を隠そうハーラル率いる天空正道隊が全滅したのがこの山の上空じゃからな」
「それが百年の時を経て発動したというのですか?」
「そうだ。ハーラルの奴、やられる瞬間に時限式魔法でも唱えたのじゃろう。まったくやっかいな事をしてくれたわい」
善蔵さんは首をかしげながらそう言った。たしかにその三大天道星器杖がこの山に突き刺さったままになっていてそれが百年の時を経て発動して山の環境を変えたのなら全てに納得がいくが……。
「ユキオス調べる価値はあるぞ」
「そうですね。でもヤーサナ・フールはどこに刺さっているんです?」
「古文書によると山の中腹Sー8地点が怪しい。ここからも近い」
「なら……。そこへ行ってみますか?」
「そうしよう。ユキオス付いてこい!」
「はい!」
こうして俺達は地図を片手にまた歩きだした。




