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第29話 魔界イノシシが山裾に降りてきた理由⑦

「だいぶ道が開けてきましたね……」


「あぁ、もうすぐ魔界イノシシ生息地点だ。ここからがいよいよ本番だ。気を抜くなよ」

 善蔵さんに励まされながら俺は前へ前へと進む。北峰を抜けた辺りから山道が広がりをみせ登りやすくなってきた。それにともないゴツゴツとした岩肌も姿を消しそれから十分も歩くと自然豊かな森が辺り一面を覆っている空間が姿を表した。


「魔界イノシシは獰猛な生き物だ。雄ともなると口元に生えた角で攻撃してくるぞ」


「えっ――。そんなにヤバい奴なんですか?」


「あぁ、ヤバい。十年ほど前の話になるがワシの猟師仲間のバルゴニダス・ドットルプスが奴等の群れに襲われて大ケガを負ったことがある」


「魔界イノシシ恐るべしですね」


「その通りだ。ところで君は魔法は使えるのか?」

 突然、善蔵さんは俺が予期しない質問をしてきた。


「魔法ですか……。すいません。習ってません」


「そうか。いや、魔界の動物は魔法が嫌いでな。奴らは不可思議な現象を見ると逃げ出してしまうのさ」


「へぇ――。初耳です」

 魔法……。いつか習得したいなと思ってはいたのだがその機会がなく今に至っている。


「善蔵さんは魔法とか使えるのですか?」


「いや、ワシはそういうのは向いてない。猟師一筋をつらぬいとる」


「そういう生き方、俺カッコいいと思いますよ」


「フッ……。粋なこと言う」

 そう言った善蔵さんの顔はどこか嬉しそうだった。


 ***


「ユキオス止まれ。背を低くしろ」

 不意に善蔵さんの指示が俺の元へ届く。


「えっ――。どうしたんですか?」


「オメェ前の光景が見えないのか。魔界イノシシの群れだ。ざっと数えて五匹以上はいる」

 その瞬間、周囲に緊張が走る。もし奴等に気づかれたら……。考えただけでも恐ろしい。


「ユキオス。四十メートルの間隔を空けながら追うぞ。見たところ山裾へ向かってる。このまま尾行すれば何か分かるかもしれん」


「は、はい……。わかりました」

 こういう時は山を知る者の勘が冴え渡る。善蔵さんの顔を伺うとそれはまるで獲物を狙う大鷲おおわしのようだった。


「ユキオス、ワシに付いてこい。距離を大切にしろ!」


「りょ、了解です」

 この先に待ち受けているものが何なのかは今のところ分からない。でも、俺達は真実を知りたい。この気持ちは善蔵さんと一緒だった。


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