第26話 魔界イノシシが山裾に降りてきた理由④
「そしてその時、颯爽とマミチョルバル将軍率いる特別強襲大隊が馬に乗って――」
相変わらずザルトリッチさんの長い長い話は続く。最初こそ真剣に聞いていたのだが、一時間を過ぎた辺りからもうどうでもよくなってきた。しかし、無視するわけにもいかない。
俺は内心、上の空でザルトリッチさんの昔話を聞いていた。
「それでな……。そのマミチョルバル将軍はな――」
さっきからなぜかやけにマミチョルバル将軍という名前がよく出てくる。てか誰だよ。マミチョルバル将軍って。もうどうでもいいよ。早く帰らしてくれ……。そんなことを強く頭で想い描いた時だった。
「ユキオスそろそろ行くか」
振り向くとそこには満足げな顔をした善蔵さんがいた。よし、今こそ帰るチャンスだ。
「そうですね……。ザルトリッチさん今日はいろいろとありがとうございました。お話が聞けて良かったです。とても勉強になりました。」
「おや、もう行ってしまうのか?」
「はい、大切な任務があるので」
「またお話しような!」
こうして、俺と善蔵さんは店を後にした。
***
「ユキオス。お前にとっての山はどんな存在だ?」
山へ向かう途中、不意に善蔵さんはそんなよくわからない質問を俺に投げ掛けてきた。
「山……。ですか。俺にとって山とは越えなくてはいけない壁ですかね」
「ふっ――。若いな。まるで四十年前の自分を見ているかのようだ。ユキオスよ、山はお前の恋人だと思え。登る時は優しく接するんだ。決してゴミなどを地表に捨てるな。その行為が時として山に暮らす動植物の生態系を変えることもある」
「えっ……。ということは魔界イノシシも……」
「そうだ。魔界イノシシに何が起こったのかはまだわからん。しかし、物事の変化には必ずそれ相応の理由がある。この事を胸に心得とけ。もうすぐ入山口だ」
「了解です!」
俺は善蔵さんの言葉を心の記憶に刻んだ。
***
「ユキオスここが山の入り口だ。まずは右に見えるホムラスス山管理事務所に挨拶に行こう」
「えっ――。挨拶に行かないとダメなんですか?」
「甘えるな。登山家は常に紳士であり続けなければならん。マナーを守って山を守る。それが山を愛する者の流儀だ」
「あっ、了解です」
こうして、二人は管理事務所へと向かった。
***
「おぅ、善蔵さん久しぶりだな!」
中へ入って早々、初老の男性が俺達を出迎えた。
「二ヵ月ぶりだな。コルコフチョルバル。ユキオス紹介しよう。彼がここの管理長、コルコフチョルバル・ダイトールルブ・ジャバイカルート・ルルサカバルクス・ペワさんだ。仲間内ではコルコフチョルバルと呼ばれている」
「コルコフチョルバルさんですね。初めまして。ユキオスといいます」
「君がユキオス君か。農場での活躍、私も耳にしているぞ。なんでも農業英雄を目指してるとか?」
「えっ――。違います。目標は暗黒騎士です」
「細かいことは気にするな。山は君を待ってはくれないぞ。さぁ、疲れたろう。奥でコーヒーでも飲みながらや山の概要を説明しよう。それでいいかい、善蔵さん?」
「フッ……。今日はコルコフチョルバルさんに甘えるとしよう」
「よし、じゃあ作戦会議室へ案内しよう」
こうして、俺と善蔵さんは奥の部屋へと向かった。




