第25話 魔界イノシシが山裾に降りてきた理由③
目の前には比較的大きな平屋だての一軒家。どことなく古い印象を感じさせる一方で気品溢れる佇まいを見せている。
「ここがスタイリッシュハヤブサマウンテン・スマートフランシスコホシフルハフスス店だ。さぁ中に入ろう!」
俺は善蔵さんに導かれるまま店内へと入った。
***
「おぅ、善蔵さんじゃないか!」
店の奥から口元に髭を生やした初老のおやじが出てきた。
「ザルトリッチ久しぶりだな!」
二人の初老の男性はまるでお互いの存在を再確認するかのように手を握りあっている。
「ユキオス紹介しよう。彼がここの筆頭店長ホイチョルバル・ササシマ・フランシスコ・ザルトリッチだ」
「キミがユキオスか。うちの店にようこそ」
「いえ、そんな……。今日はよろしくお願いします」気さくなザルトリッチさんに俺はペコリと頭を下げた。
「ザルトリッチは若い頃、魔王軍第12独立機動山岳警備救難旅団ホムラス山特務派遣中隊に所属していてな。山との縁が強すぎるあまりに定年を迎えた今でもこうしてショップのオーナーとして活躍している」
「ハッハッハッ。止めて下さいよ善蔵さん。あなたの経歴からしたら私なんてまだまだです」
「ふっ……。さすがザルトリッチさん。人を誉めるのがうまい。あっ――。そう言えば第三次バループバゴニ山機動包囲迂回作戦の時……」
二人の会話は止まることなく続く。まるで地平線まで続く海のようだ。俺はそんな二人を脇目に見ながら商品陳列コーナーへと歩みを進めた。
***
棚には登山で使う道具・各種装備品。そして非常食がところ狭しと並べられている。価格は比較的安く抑えられており、お財布がさみしい俺でも色々と買い求めることができそうだ。その時、俺はある一足の靴に目が釘付けになった。
「こ、これは――。イルゾマスト・F・ダブルファーストアリゲーターモデル!?」
「よく気づいたな」
「えっ!?」
振り向くとそこにはザルトリッチさんがいた。
「まさかここにFの名を冠する靴があるとは!」
「驚くのも無理はない。これはその昔、伝説の靴職人マゴマチウス・イルススマナハス・F・コンが最後に作った名品じゃからな」
「それもまさかのアリゲーターモデル。これって登山用のヤツですよね?」
「おぉ、よく知ってるな。その通りじゃ。もしかしてお主はこれが欲しいのか?」
「そ、そうですね。でもこれお高いんでしょう?」
「あぁ、高い。しかしお主の登山靴に対する情熱にワシは感動した。九万ゴールドにしよう」
「九万ゴールド……。収穫後払いでもいいですか?」
「もちろんだ。ワシらも君達が農場で作る地獄大根を心から楽しみにしてるからな。よし、これも持っていけ!」
「ザルトリッチさん。これは?」
「強化シューズ・Sだ。これを使えば靴が汚れないし傷もつかない」
「ありがとうございます。ザルトリッチさんは靴が好きなんですね」
「靴もじゃがワシは山が大好きなんじゃ。ほれ、登山には他にもいろいろと必要じゃ。ワシがコーディネートしてやろう。あぁ、それとな――」
ザルトリッチさんの話はこの後、一時間ほど続いた。




