第23話 魔界イノシシが山裾に降りてきた理由①
「はぁ……。朝早々、隊長権限命令発令とは……。本当に勘弁してもらいたい」
ある日の早朝、俺は窓から覗く太陽を背中で浴びながら隊長執務室へ向かっている。どうやら俺に大切な用事があるらしいがいったいなんだというのだ。
「まだ朝五時だよ……。あぁ、眠い」
眠たい目を思いっきり擦りながら俺は隊長執務室へと急いだ。
「ユキオスです。失礼します!」
ガチャリとドアを開け朝の挨拶をおこなう。目の前にはいつもの隊長が長椅子に座っている。
「おぅ、ユキオス君おはよう。朝早くに呼んですまないな」
「いえ……。過ぎたことです。ところで用事というのはなんなんです?」
「その前に聞きたいことがある。キミは動物とか好きか?」
「動物……。ですか?まぁ、嫌いではありませんが」
「その言葉を待っていた。実はキミに魔界イノシシの生態調査を行ってもらいたいのだ」
「え、えぇ――!」
魔界イノシシ。大きい固体で全長五メートルを超えるこの地域最強の生物である。とくに思春期を迎えた雄は凶暴で口元についた牙で刺される事案も数年前にあったという。
「近頃、我々の農場付近での目撃例が多いのだよ。このままでは作物が食い荒らされる可能性もある。ユキオス君、キミにはなぜ魔界イノシシが我々が暮らす山裾まで降りてきたのかその原因を調べてもらいたい!」
「なかなかシビアなミッションですね。と言うか不安要素がありすぎでしょう」
「もちろん一人で行けとはいわん。ベテラン猟師の善蔵さんも同行してくれる」
「善蔵さん……。初めて聞く名前ですね。いったいどんな人なんです?」
「本名はマクタチアヌスウスス・ヨハン・善蔵といってな。地元猟友会の名誉会長を勤めている。なんでもこの地域でトップクラスのハンターらしいぞ。ちなみに彼の座右の銘は、俺の標的が最後に見るのは俺の瞳。だそうだ。あとこれを持っていけ」
そう言うなり隊長は引き出しから一丁の拳銃を差し出した。
「け、拳銃ですか?」
「いや、違う。水鉄砲だ。」
「絶対にいりません」
「冗談冗談。これは魔式信号拳銃といってな、鉛弾を撃つことはできないがその代わりに信号弾を発射することのできる代物だ。本来は救難を求める際に使うものだが……。まぁ、いいだろう。ちなみに中折れ式になっておるから一発打つごとに次弾の装填が必要になる」
「はぁ……。つまり護身用に持っとけということですか?」
「その通りだ。魔界イノシシはこの地域の生態保護動物だからな。キミの今回の任務はあくまで生態調査であって狩猟ではないのだ。これは善蔵さんにも既に伝えてある」
「そうですか。任務なら仕方ありませんね」
「そうだ。これは各方面で様々な活躍をしているキミだからこそ頼める事案だ。そのことを強く胸に心得ていてほしい。では、よろしく頼む。善蔵さんはホシフルハフスス村でキミを待ってるからさっそく合流するといい」
「了解しました。では、失礼します」
こうして俺は新しい任務を受領し善蔵さんが待つホシフルハフスス村へと向かった。




