第184話 テイオス軍と凱旋門
首席補佐官護衛隊だけを率いて私はテイオス軍に合流すべく馬を走らせる。軍の近代化を急いではいるが、やはり馬は良い。エンジンを積んだ自動車が今後の移動手段となっていくのは薄々わかってはいるが、やはりもうしばらく馬を使おう。
「アッシュバール様、テイオス中将は幕僚を連れて凱旋門にてお待ちです」
首席補佐官護衛隊隊長のゴバカズが私の横に馬を寄せてそう言う。父上から付けられた側近の一人だが、知略及び武芸も申し分ない男だ。彼のお陰で命拾いをしたことは一度ではない。
「わかった。あまり長く待たせては悪いな。よし、急ぐとしよう」
「それにしてもボンズゴフは大胆なことをしましたな。それにアッシュバール様が直々に動くことになるとはーー」
「奴等にも考えがあるのだろう。背後には……。パルメクルか」
「『農場』の連中も一枚かんでいるようですぞ」
「また奴等かーー。ユキオスというヤツが農場に来てから動きが活発になったな」
「はい……。それにしても、いくら農場が魔界大根の生産、流通を一挙に担っているとはいえ、身勝手な振る舞いが多すぎませんか?」
「ユスティーーじゃなくて今はゴルヌスか。父上の温情を心から受け入れていればいいものを。まぁ、いい。この件の後、軍を送り問いただしてやろう」
私はそう言いながらニヤリと笑みを浮かべた。ゴルヌスさえいなくなれば、現王ゴルゴースヌストス二世の直系は宮廷で一日中遊んでいる優柔不断なアントヌスのみ。奴を次の王位につければ今以上にこの国の実権を握ることができる。
「アッシュバール様、凱旋門が見えてきました」
ゴバカズ隊長が指差したその先に闇夜に銀色に輝く巨大な大理石でできた凱旋門がそびえ立っていた。
***
「閣下、お待ちしておりました」
参謀将校の威厳を現す三重の金モールを付けた幕僚の中からテイオス中将は三歩ほど進み出てきてそう言った。長いこと前線に出てないせいなのか、前に見たとき以上に太っているような気がする。
「今回の作戦の詳細は先に知らせた通りだ。昼過ぎには出陣出来そうか?」
「もちろんです。魔界国家の盟主であるティグラノケルタスを護る我等に遅れなどなりません!」
「なら、よろしい。私は出陣まで寝てるとしよう」
「御意。なら部下に将官用のテントを用意させましょう。閣下はゆっくりとしていてください」
「ありがとう。ちなみに行軍中、私は先頭を進んでもいいかな?」
「もちろんです。首席補佐官殿が先頭を進めば兵士の士気も今以上に上がることでしょう!」
テイオス中将は夜ということもあってか少々寒いのに、なぜか大粒の汗をかきながら一言そう言った。