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第183話 ティグラノケルタスの鬼才

 ニコライズとユキオス達一行の話が佳境に入ったまさにその頃ーー。


 ***


 ーー魔界国家首都、慶柱ティグラノケルタス。魔王府本部庁舎ビル七階、中央廊下ーー


「はぁはぁ……。まったく!」

 ヨネダ秘書官は消え入りそうな声でそう言った。明日から久し振りの連休休暇なのに突然の魔王府官房第三部諜報別班からの緊急報告。それも内容が重要同盟都市ボンズゴフでの反乱勃発ときた。こんな緊急の案件、休み明けという訳にはいかない。それにしても反乱分子の行動を未然に防ぐのが諜報別班の役目のはず。それが市政府及び中枢区を反乱分子に占拠された挙げ句、このあとボンズゴフの独立宣言ときた。

 まぁ、ここまでの流れを知ることができるのもまた諜報別班のおかげといえばそうだが……。


「は、早くアッシュバール様に報告せねばーー」

 そう考え直したヨネダ秘書官は長い中央廊下を走り抜けた。


 ***


「失礼します!」

 そう言うなりヨネダ秘書官は翡翠ヒスイで出来たドアをあける。それにしてもいつ開けてもこのドアは重たい。重たすぎてたまに開かなくなるほどだ。

 魔王首席補佐官執務室の大きさはだいたい畳換算たたみかんさんで十畳ほどか。豪華な調度品にシャンデリア。まるでこの国の主のようだ。

 そして、その部屋の奥のふかふかソファーにその男はドシリと座って本を読んでいた。


「アッシュバール首席補佐官殿に緊急報告。ボンズゴフに派遣していた諜報別班からです。本日夕刻過ぎ、ボンズゴフにて反乱勃発。反乱勢力の規模や組織力は不明。反乱勢力は市政府及び中枢区を占領して魔界国家からの離脱及び独立宣言をおこなう予定とのこと!!」


「市政府上層部メンバーの安否は?」


「現時点では不明です。反乱は用意周到に準備計画されていたらしく、我等が駐屯軍は既に武装解除されており、肝心の要港部及び船舶司令部とも連絡が取れません。既にボンズゴフは反乱勢力の占領下におかれていると言っても過言ではありません」


「この情報、父上には伝えていないな?」


「レオポリス大公様にはまだ何も伝えていません」


「それでいい。父上は軟弱な考えの持ち主だからな。ユスティヌス一派を追い落としたまでは立派だったが、それからはまるで考え方が変わったようにおとなしくなってしまった」

 そう言った後、アッシュバール首席補佐官は不意に読んでいた本にしおりを挟めて立ち上がると執務机の方へと向かっていった。


「アッシュバール様、ボンズゴフ反乱の件、どのようになされますか?」


「グヌーキオレスの整備状況はーー」


「まだ調整中のため発射できません」


「まだ使う時期ではないということか。しかし、ボンズゴフの反乱騒ぎを放っておいては他の同盟都市及び同盟国に示しがつかん。ティグラノケルタス親衛軍第二師団に軍旗を親授のうえ、出陣させよ。指揮はテイオス中将がとればよかろう」


「鎮圧作戦ですか?」


「いや、鎮圧作戦はとらん。テイオス軍には軍使として私が同行する」


「えっ、アッシュバール様みずからが向かうのですか!?」

 ヨネダ秘書官は口を大きく開けて驚きながらそう言った。さ、さすがティグラノケルタスの鬼才。やることが違う。


「ヨネダ秘書官、私は自由なのだよ」


「自由……。ど、どういう意味ですか?」


「魔王首席補佐官及び魔王宮御側用人という地位がだよ。宮廷にも政治にもどっちにも権力を行使できる。それに見てみたいのだよ、大胆にもボンズゴフで反乱を起こした奴等をね」


「き、危険ではありませんか?」


「戦争をするために行くんじゃない。まずは交渉だよ。向こうがそれで折れれば上々さ。魔王府には君から説明しておいてくれ」


「独断専行及び事後承認ですか。民主主義が泣きますよ?」


「そんなことを言うとは君らしくないな。君と私の見る空は同じだろうに。魔界国家は所々で綻びを見せている。ボンズゴフの反乱が良い例だ。時代は新秩序を求めているのだよ」

 そう言った後、アッシュバール様は薄紫で染められたマントを翻しながらさっそうと出ていった。黒いスーツに薄紫のマント……。このファッション、今後ティグラノケルタスで流行るかもしれないな。

 そんなことを考えながらヨネダ秘書官はじっと彼の後ろ姿を羨望の眼差しで見ていた。


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