第182話 謀略と変革と会話②
「秘密同盟か……。なぁニコライズよ、仮にも我々が魔界国家軍人だと知っててそんなことを言っているのか?」
奴の発言を聞いた瞬間、隊長はそう言い返した。その雰囲気はいつもの飄々とした隊長とはなんだかひと味違うような気がする。
「御意。もちろんだ。無論、こちらの計画をまず明かしたのには訳がある。レオポリス大公を知っているな?」
「もちろんだ」
「ハッハッハ……。ある意味因縁の仲とも言えるか。おぉ、余談が過ぎたな。いかに魔王族の家系は長生きと言っても現王ゴルゴースヌストス二世は既に超のつく程のかなりの高齢。我が主であるロバート御大将閣下によると、ここに来て大公は計画の総仕上げをおこなう気だ。そう、奴は魔界国家の大魔極司宝物『トライコク・ゼヌス』を使って魔界国家を支配し、ファレイルセスコヌス大陸への大規模侵攻を行う気だ」
「大魔極司宝物に大陸侵攻……。ま、まさか!?」
「そ、その前に隊長ーー。大魔極司宝物ってなんですか。は、初耳なんですけど」
「ユキオス、大魔極司宝物というのは魔王家に伝わるいわば家宝のようなものだ。その力は雲を超え天を超え貫き、全ての万物に宿る隠された力を全て引き出すことができると言われている。ちなみに、あの古の民人であるムルパッチ・アーバシ族の古文書にも密かに書かれているそうだ。だがな、あまりにも強い力を持っていることからその力の暴走を恐れた第五代魔王陛下によって魔王家発祥の地に厳重に封印されているらしいが……。しかし、ヤツが権力を掌握してからかなりの年月が経ってるのになぜ今さら?」
「それにはどうやら大公の息子が関わってきているらしいがーー。おっと、少々喋りすぎてしまった。ロバート御大将閣下に怒られてしまう。ちなみに、ファレイルセスコヌス大陸と言えば我等が所属しているパルメクルがある大陸。如何にパルメクルの表の顔のゼゴー大統領が領土拡大に意欲的とはいえ、真正面から強国である魔界国家と衝突したくないのですよ。まぁ、実際にはゼゴー大統領は領土拡大には消極的だが……」
ニコライズは少し困ったようでそう言った。しかし、疑問が残る。今回のハルジル・タイプモォルホルドンといい、いつも最初に挑発行動に出てくるのはパルメクルの方ではないのか……と。
ここで俺はこの疑問をヤツにぶつけてみることにした。
「ニコライズーー。一応、委員長と呼ぼうか。今回のハルジル・タイプモォルホルドンといい挑発行動に出ているのはパルメクルの方でしょう。その一方で俺達と秘密同盟を結びたいとか言ってることは支離滅裂ではないんじゃないですか?」
「パルメクルは今、二つに分かれている。そもそも魔界国家に対する挑発行動の指揮をとっているのはゼゴー大統領とその後ろにいるキオ様ではない。パルメクル国防総局司令官のパッフルクス大将だ。世間ではゼゴー大統領になってからパルメクルは周辺地帯を自国の領土に武力併合しだしたと言われているが、それは誤解だ。ゼゴー大統領は謂わば飾り。その内実はといえば、国内統治はキオ様が指導しており、領土拡大の指導をしているのは国防総局司令官のパッフルクス大将だ。まぁ、分かりやすく例えるのなら内務文官派と外征武官派の対立だな。どちらもパルメクルの完全な主導権を握るべく、双方が静かに火花を散らしているのだ」
「要はパルメクルはパルメクルで大変ってことね」
ここでナナセさんが苦笑いをしながらそう言った。なんとなく少しずつではあるが、何か核心へと迫っているような気がする。そして、ここでまたニコライズがゆっくりと静かに話し出した。