第181話 謀略と変革と会話①
「いったいどういうことなんですかねぇ……」
「さぁな。しかし、行ってみればわかるだろう」
ゴルヌス隊長は険しい表情を浮かべながらそう言った。
今、俺と隊長とナナセさんはトレンゴフ・柴田さんに連れられて『ある場所』へと向かっている。ハルジル・タイプモォルホルドンの指揮制御上位パーツの落下を止めるべく、ボートを降りて大急ぎでスベルフスキー館へ向かっている途中、先行していたトレンゴフ・柴田さんに呼び止められて今のような状況になった。彼は『状況が変わりました。会わせたい人がいます』と言っていたが……。たしかにこのボンズゴフ市とハルジル・タイプモォルホルドンを巡る事案は色々と謎が多い。恐らく柴田さんが会わせたい人というのはこの謎に絡んでいる人なのだろう。なら、尚更その人物が気になる。
「ユキオス君、今のうちにこれを……」
俺だけが聴こえるような小さな声でナナセさんがそう言った後、俺に小さな袋を渡してきた。中には何か硬いものが入っている。
「もしかしてこれは……。大きいせんべいですか?」
「ふざけないでユキオス君。今は、シリアスな場面よ。全身全霊で周りの緊迫した空気を読んで」
「あっ、ごめんなさい」
「話を元に戻すわね。この袋には小型近接拳銃が入ってるわ。有効射程は約五メートル。弾は二発だけ。御守り変わりに持っといて」
「わかりました。でもこれはナナセさんが護身用に持っとくべきでは?」
「何言ってるの。あなたが私を守ってくれるなら、私には必要ないわ」
「あっーー。全身全霊で守ります!」
「おい、二人とも何をひそひそ話をしてるんだ。どうやら目的地が見えてきたみたいだぞ」
隊長が二人のひそひそ話を遮るようにしてそう言った。どうやら俺達はこれからあの灰色の三階建ての建物に入るようだ。
***
「皆さん、こちらへどうぞ」
誰もいなくて薄暗いエントランスホール。その地下の先に目的地の部屋はあった。柴田さんに言われるまま、中へと入る。そこには灰色の軍服を着た男がふかふかのソファーに一人座っていた。彼の軍服の胸には軍事的に高い地位を示す三重の金モール。しかし、この軍服はーー。そして、この男、どこかで見たことがあるぞ!
「初めまして……。じゃないな。貴殿達にまた会えて嬉しいよ」
「お前はーー。ニコライズ!!」
軍服の男がニコライズだと認識した途端、周囲に緊張が走る。そして、ヤツがいるということは何となくこの事案の黒幕を認識したような気がした。
「まぁ、待て待て。今回はお前達と戦うために俺はここにいるんじゃない。それに今の俺は新ボンズゴフ臨時建国委員会委員長。どうだ。この権威を身にまとったような軍服、似合うだろう?」
不敵な笑みを浮かべながらニコライズはそう言った。
「新ボンズゴフ臨時建国委員会委員長……。お前の目的はなんだ!?」
「そう喧嘩腰になるなよユキオス。隣のお嬢さんも目がキョトンとしているぞ。まぁ、落ち着けよ。俺が今、話をしたいのはゴルヌス隊長だ」
ニコライズはその鋭い瞳を今度はゴルヌス隊長の方へ向けた。
「トレンゴフ・柴田。お前が会わせたかったのはこの男か?」
「えぇ、そうです隊長。まさかあなた方が知り合いだったなんて知りませんでしたけど」
「ふぅ……。とりあえず話を聞こうかニコライズ」
「さすが高貴な生まれ、いやはや理解が早いーー。いや、今のは蛇足でしたな。今現在、市内要所は我が委員会直属の自由ボンズゴフ市民防衛軍が押さえている。これが全て無抵抗の下に成功したのは、ボンズゴフ市民の心が魔界国家から離れているからだ。そしてこの後、俺が委員長の任にある自由ボンズゴフ臨時建国委員会は魔界国家に対して新生ボンズゴフの自主独立及び魔界国家編入条約の即時無効宣言をおこなう。さて、こうなると魔界国家はどんな手段に出るかな?」
「ニコライズ……。ボンズゴフ市は魔界国家にとって大切な同盟都市。もちろん最初は交渉をおこなうだろう。考えを改めて魔界国家に留まれーーと。しかし、最終的には魔界国家相互防衛条約第二項に基づき魔界国家条約機構軍を編成して武力を持ってこの企てを阻止するだろうな」
「さて、隊長。話を進める前に提案だ。我が自由ボンズゴフ臨時建国委員会は貴殿ら魔界大根農場チームと秘密同盟を結びたいのだ!」
「な、なんだと!?」
ゴルヌス隊長は驚きながら一言そう言った。その隣にいる俺やナナセさんも驚いている。
これは魔界国家……。いや、大陸情勢を揺るがすことになる事案となりそうだ。