第177話 海中指令!! 潜った先のアイツ④
「グハァ……!」
海上に出て酸素マスク兼ヘルメットをとった瞬間、新鮮な空気が肺の中に広がっていく。どうやらヤツの追撃はないようだ。内心、ハルジル・タイプモォルホルドンを完全起動させてしまったとも心配したが、それは杞憂に終わったようだ。『攻撃すれば最低限度の防衛はしてくる』それが、今のアイツの行動原理らしい。
隊長とナナセさんが乗っているボートからは少し離れてしまったようで約百メートルほどの場所で二人のボートは波にゆられてゆらゆらしている。
ーーさて、どうしよう。
これがズバリ今の俺の心境である。
使い捨ての爆雷槍はヤツの触手によってほぼ無効化されてしまい、今の俺は武器がない状態である。これではハルジル・タイプモォルホルドンを倒そうにも倒せない。
なら、他にとれる手段は……。
「とりあえずボートに戻るかーー」
そう決意した俺は得意のクロール泳法をふんだんに駆使しながら二人が心配そうにこっちを見ている中を泳ぎ始めた。
***
「さすがユキオス。もうハルジル・タイプモォルホルドンを倒したのか。さすが俺が見込んだことはあるな!」
俺が勢いよくボートに戻った瞬間、隊長がまるでお菓子を貰った時の子どものような瞳でこっちを見ながらそう言った。むしろ、そうならこっち的にも嬉しいのだが、現実はそう優しいものではない。
「いや隊長、実はハルジル・タイプモォルホルドンに予想外の反撃を受けまして。俺はなんとかこうして無事ですが、虎の子の爆雷槍を使いきってしまったのです」
「反撃だと……。ヤツは指揮制御上位パーツがないとうまい具合に動けないんじゃないのか」
「俺もそう思って近づきました。しかし、どうやらある程度の自我があるようです。予想以上にね。ていうかハルジル・タイプモォルホルドンって結局のところ、大きなイカの怪物ですよ」
そのあと、俺は身ぶり手振りでヤツの姿形を説明した。二人とも意外なほど真剣な表情で聞いてくれている。
「となると……。つまりハルジル・タイプモォルホルドンって機械化した大きなイカってことなの?」
ナナセさんが俺の渾身の説明を聞いたあと、そう言った。まさに俺が言いたいのはそう言うことである。
「厳密に言えば大きなイカのロボットですかね。触手で攻撃してきたのでほぼ間違いないかと。もしかして我々が恐れている指揮制御上位パーツというのはコクピットなのではーー」
「いや、待てユキオス。もしハルジル・タイプモォルホルドン自体が壮大なオトリだとしたらどうだ。指揮制御上位パーツが実はパルメクル特殊部隊の自立機動小型ユニットだとしたら状況がかなり変わるぞ」
「自立機動小型ユニット……。いったいどこからそんな発想が生まれるんですか隊長さん。でもハルジル・タイプモォルホルドンという切り札的なものをオトリにしてたかだか俺達三人をおびきだす事になんの意味がーー。仮にトレンゴフ・柴田さんが言ってたようにスベルフスキー館が真の攻撃目標ならやはり今からでも陸に戻った方がいいのでは?」
「ユキオス安心しろ。もうすぐカルロス・ムラが特別な海中爆弾を装備した突撃挺でこちらにやって来る。到着後、すぐに爆弾をハルジル・タイプモォルホルドンが潜んでいる海底に向けて投下して我々もスベルフスキー館に向かおう」
隊長はしっかりとした瞳で俺を見ながらそう言った。その横ではナナセさんが私もそれに賛成といった感じで首を小さく振っている。
「うん……。その案が一番ナイスですね。俺も虎の子の武器を失った訳ですし」
俺もそう言った後、二人に向かって小さく頷いた。