第173話 海中指令!!潜った先のアイツ①
ーー海の中は暗い。
これが俺の海中に対するイメージである。漆黒の闇に呑み込まれるほど怖いものはない。しかし、この下には確実にハルジル・タイプモォルホルドンの下部パーツがいる。それに対する俺の武器は特別仕様の爆雷付の槍。槍の柄の下ら辺に付いているトリガーを握ると爆雷が発射して魔界スクリューウォーター力学効果によって推進力を得て対象物へ向かって突撃して破壊するらしいが……。本当にうまくいくのだろうか。隊長曰く『君が着ているダイバースーツは粒魔弐空ターコミカクスコニツ繊維を魔界染めの要領で染め抜いている。心配御無用』らしいのだが、肝心の粒魔弐空ターコミカクスコニツ繊維がなんなのかを教えてくれないのが気になる。いや、本当に。
「ユキオス君。さぁ、出番よ!」
俺の背中を若干強く押しながらナナセはそう言った。いや、待ってくれ。正直まだ心の準備が出来ていない。
「ナ、ナナナセさん待ってください。実はまだ心の準備が出来ていないのです」
「なめた口きかないで。それにユキオス君、『ナ』が多いわ。とりあえず今言えることは、私は泳ぎが苦手、隊長さんは船舶免許を持っていて海水浴場の監視員をしていたのに泳げない。とういうことで結論を言うともはやあなたしかいないのよ。それにもう十分もそうして体育座りをしているじゃないの。さぁ、ファイト!」
ーーわかっている。
そう、俺しか出来るやつがいないのだ。しかし、いざ潜る段階になって足が震えてしまう。こんなことなら十分前に勢いで飛び込んでおくべきだった。本当にこういう時ほど勢いが大切だというのをホトホト感じてしまう。
俺は今、あまり大きくないボートの上で葛藤しているのであった……。
「ユキオス君、約二十分前の勢いはどこにいったのよ。トレンゴフ・柴田さんもたぶん頑張ってるわ。負けていいの?」
ナナセさん、最初は優しく諭してくれていたのだがどんどん語気が強くなっている。これは俺が体育座りで動かないからなのだろう。その気持ち、正直わからんでもない。
「いや、ナナセさん、トレンゴフ・柴田さんと俺は行動力が違うかもです」
「なめた口きかないで。あなたは特殊仕様のダイバースーツを着て爆雷つきの槍も装備している。やれば出来るわ!」
「やればーー。出来る?」
「そうよ、そう。ねぇ、隊長さん?」
「あっ、なに。ごめん、小さい魚見てて聞いてなかった」
「もういいわ。二度と話は振らないから。とりあえずユキオス君、海中に潜るのはタイミングが大切だから!」
「あっ、はいっ!」
ここで俺は体育座りの様相を解除した。やれば出来る。たしかに思い返すと幼少の頃、なかなか理解できなかったかけ算の理論もやれば出来た。
ならっ……!
「ナナセさん、行ってきますーー」
「さぁ、もう早く落ちないよ。ファイト!」
「あっ、待って……。やっぱり心の準備が……」
気がつくと俺はハルジル・タイプモォルホルドンが眠る海の中へと入っていた。