農場外伝 町衣紋さんの危険なラーメン道中~中編~
農場を出て二十分ほど歩くとタチカヌチヌスの町が見えてくる。ここまで来ると周囲の風景は一変して何となく都市っぽくなってくる。ここは物流の通り道としても重要な場所であり近年、お店の新規出店が相次いでいた。
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「ここが……」
目の前にはオシャレな提灯をたくさんぶら下げた小さなお店がある。大通りから一歩入った裏路地にあることから人通りは少ないがその店の放つ圧倒的なオーラは入らないまでも理解できるくらいである。
「『カジュアルダブルファッションラメンショップ・巴・頂・オルセルメーツハーラテールベロイツア』かぁ……。おい、何の店なんだここは?」
「も、もちろんラーメン屋ですよ。それにしてもカジュアルなネーミングっすね。こりゃあ一目瞭然でしょうよ」
首を大きく振りながらマルティネスはそう言った。いや、たしかに看板には達筆書きでラメンと書いてあるけどもなかなか入りづらいだろうよこのネーミングじゃあ……。そもそもラメンってなんなんだ、そこはラーメンではないのか。とりあえずここまでのある意味意味深かつスタイリッシュな店名を考えた店主はかなりの上級者であろう。
「ダーテメックス・純がうまいっていってるんだから味はたしかなはず。まぁ、百分は一見にしかず。入ってましょう」
「たしかにあのグルメ通の純が言ってるならーー。まぁ、とりあえず入るか」
そして俺はドアをゆっくりと開けた。
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「……。らっしゃい」
入った瞬間、かなりの低音ボイスの声が店内に響きわたる。ここまでの声に仕上がるまでいったいどれほどの月日が必要だったのだろうか。店主のオーラがびしびしと俺の生肌に伝わる。
ーー間違いない。店主はできる男だ……。
「二人か。空いてる席に座りな。遠慮はいらねぇ」
がら空きの店内で店主は一言そう言った。この状況、正直座り放題だよ。一人ワンテーブルも夢じゃないよ。……。いや、ここは敢えてツッコミを入れるのはやめておこう。それが俗に言うセオリーと言うものだから。これでは店主の思うつぼだ。敢えて俺のツッコミを誘ってきてるに違いない。
「じゃあ町衣紋ーー。あそこに座ろうか」
そう言うなり店主に正面から相対するカウンター席ではなくて奥のテーブル席を指差しながらマルティネスは早歩きで進んでいった。
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適当にテーブル席に座りメニュー表を見てみる。
「マ、マルティネス……。セバスコンコニテス・ラーメン定食ってなんなんだ。何ラーメンなんだ、これは!?」
いろんな品々に紛れて謎の名称のメニューが顔を覗かせている。セバスコンコニテス・ラーメン定食を筆頭にヤルッソンナダハ炒飯定食、パイオニア白米パワーヤングナイト定食ーー。こうなってくると定番のラーメン定食というメニューがなんだか物足らなく見えてしまう。
「さすがハリー・竹木場林さんってとこですよ。一見意味がわからないメニューの中に味の真実を表現する。もはや彼は率先的表現者ですよ!」
俺の問いに対してハッキリとした口調でマルティネスはそう言った。うーむ、よくわからないが要は味で勝負と言うことか。それはそれで好感が持てるがーー。うん。
「ちなみに俺は今月のオススメっていうステッカーが貼ってあるマイオリジナル炒飯定食にするっスけど町衣紋さんは?」
「ラーメン定食にするよ。ここは定番メニューにするのが良いってもんよ」
「了解。セルフサービスの水を取りに行ってくるからその時に暖簾の奥にいる店主に伝えとくよ」
ゆっくりと立ち上がりながらマルティネスは一言そう言った。