農場外伝 町衣紋さんの危険なラーメン道中~前編~
ユキオス達が『チーム農場』を意識し始めていたその頃ーー。
「ふぅ……」
隊長執務室の窓から見る空は青い。ついついため息がこぼれ落ちるくらいに。まるで紋白蝶になったかのようだ。
ーー俺の名前が町衣紋なだけに。
隊長とユキオスは不在。そして俺は隊長から臨時農場隊長権限執行代理者に任命され今、こうして隊長執務室のふっかふかのソファーベッドを満喫している。腰に石が当たって腰痛が再燃及び悪化してから早数ヵ月。長かったような短かったような、そんな日々であった。病院の先生から仮退院の許可がおりたその矢先の臨時農場隊長権限執行代理者任命。世の中とは本当に不思議なものである。
「どうした、町衣紋。やけにニヤニヤしてるな」
テーブルの向こう側に座るマルティネスが一言そう言う。彼もなかなかニクいことを言うようになったもんだ。
「いや、この隊長執務室の居心地が良くてね。腰痛の痛みも落ち着いてるし気持ちも落ち着いている」
「ふっ……。君の夢に一歩近づいた訳だろ。素直に喜べよ。最終的には内国農務統監にでもなりたいんだろ?」
「内国農務統監になるには魔王様直々の信任状がないと無理さ。それに宮廷には政府および内閣は関与できない。それよりも魔界大根の発育は順調かーー」
「パートタイマーゴブリンの求人を増やすほど良い感じだ。肥料を変えたのが良かったかな。それにしてもここにきてからまだ日の浅い俺を農場幹部にしてもいいのかい?」
「状況が状況だからな。隊長及びユキオスは不在。内務事務統括責任者のゴー・レムさんは女子会と資格取得に熱心。今は君が頼りだ」
俺の言葉を聞いたマルティネスは若干照れていた。そんなお前、実はキライじゃないぜ。
「……。そう言われるとなんだか照れるな町衣紋。なんだかコーヒーがうまくなりそうだ。そうだ、今後の農場の繁栄を願って今からラーメンでも食べに行かないか?」
その時、急にマルティネスはそんな提案を俺にしてきた。
「ラーメンーー。どうした急に」
「いや、実はオススメのラーメン屋があってね。なかなかキレる麺を出すしゃれた店なんだ」
「店主の名は?」
「ハリー・竹木場林。農場に就職する前、同窓生のダーテメックス・純と食べに行ったんだがそれはそれは美味でな」
「ハリー・竹木場林……」
竹なのか木なのか林なのかよくわからない名前だ。それにしてもそんな名前聞いたことがないなーー。
こう見えてラーメン好きの俺も知らないラーメン屋かぁ。
ーー正直、ぜひ行ってみたいかも。
「いいぜ、行ってみるか!」
俺は満面の笑みを浮かべながらマルティネスにそう言った。