第16話 ポンプ室サバイバル~準備編~
トットットッ――。
夜の廊下に俺とゴルヌス隊長の足音がこだまする。
「ユキオス、お疲れ中にすまないな」
「いえ、隊長別にいいですよ。ポンプ室は農場の生命線ですからね」
ポンプ室――。文字通りここは水を施設全体に供給している場所である。ちなみに風呂の水もここから供給されている。ここが使えないとなるとかなり不便な状況になってしまう。
「そう言えば隊長、ポンプ室の管理人さんはどうしたんです?」
「あぁ、彼は昨日から有休休暇を取って地元に帰ってる。なんでもお墓参りに行くそうだ。祖先のな」
「はぁタイミング悪いですね――。彼なら魔界ヘビの対処方も心得ているのに」
魔界ヘビ――。大きい個体で全長二メートルを超えるかなり危ない奴である。色はエメラルドグリーンが多い。噛まれても毒はないが噛む力が強いので運が悪いと手や足を千切られることも有るらしい。この前、週間魔界ニュースペーパーに書いてあった。
「よし、まずはここで準備をしよう。魔界印の長靴を忘れるな。奴は長靴の臭いが嫌いだからな」
――器具庫。と書かれた部屋の中で俺は隊長と共に装備を整える。強化軍手に強化ハイソックス。そして、催涙スプレー。準備にも余念はない。
「ユキオスこれをもっていけ」
「ゴルヌス隊長これは?」
「棒だ。魔界ヘビが襲ってきたらこれで倒せ。いや叩け」
「えっ隊長。棒で叩いて倒せるような相手なのですか?」
「いや、たぶん無理。俺、そんなに詳しくないから。でもまぁ無いよりはマシだろう。催涙スプレーで奴を弱らせて最後は棒だ。でもこの棒は短い。油断するなよ」
「隊長――。もっとマシな護身用具はないんですか?」
「残念だがない。ユキオスごめんね。もちろん剣や弓矢はあるのだが、薄暗く曲がりくねった迷路のようなポンプ室では使い物にならないだろう」
「たしかに――。ところで隊長も御同行してくれるのですか?」
「いや、ごめん。さっきも言ったけど俺はヘビ苦手なんだ。でも一応、保護具は装備しとくよ。外で待ってるからね」
「そんな――。俺も正直怖いですよ!」
「ユキオスグッジョブ!」
隊長は健やかな笑顔を俺に向けながらそう言った。