第171話 海上迎撃計画~不安編~
俺達の緊張感とは裏腹にハルジル・タイプモォルホルドンが垂直落下してくる気配がない。まるで平和そのものだ。個人的には釣りを楽しみたい心境である。
「隊長、この海域に着いてもうすぐ一時間が立つのですが本当にヤツは来るんですよね?」
「ユキオス、表面だけを見るな。物事とは常に表と裏の表裏一体だ。まるで太陽と月のようにな。理を読む術を学べ」
「はぁ……。そうですか」
ここ最近、隊長はよくわからない一言を言うのに夢中なのだろう。まぁ、その気持ち分からん訳でもないが。それに当初、船酔いを覚悟していたのだが意外と波は穏やかでその心配は無さそうだ。
「なんだか嫌な予感がしませんかーー?」
俺のすぐ横で柴田さんが一言そう言った。おそらく彼も不安を感じているのだろう。
「柴田さんが感じた『嫌な予感』ってどんなものなんですか?」
「『陽動』とかですかね。わざと偽情報を流しておいて我々の行動を攪乱してその隙に奴らは真の目的を達成するとか」
「なら……。この下に潜んでいるのは偽物?」
「ハルジル・タイプモォルホルドンの部品パーツが沈んでるのは各種情報を総合分析して導きだした答えなので疑う余地はないかと。ただ第三ユニットパーツは指揮上位パーツで個体独立移動が可能というのが少々引っ掛かりますね」
「となるとーー。パルメクルの真意はいったいなんなんでしょう。今更こう言うことを言っても仕方のないことですが、ボンズゴフ港への地殻変動攻撃をしたところでボンズゴフ市民の憎悪を増すだけでしょうし」
「はっ……!」
その時、隊長が何かを思いついたような表情で大きく天を見上げた。その目は大きく見開きそれは状況の変化を如実に物語っているかのようだ。
「柴田、今日は何の日だ?」
「今日ですか……。今日は『愛と勇気と鉛筆の日』ですけど」
「柴田さん何ですかそのチャーミングな記念日は?」
「ボンズゴフ市の市民英雄にて模範労働勤労勲章を授賞したバシリスキー軍曹を記念してつくられた記念日です。軍曹はーー」
「柴田、その話はまた今度だ。ならスベルスフキー館に市政府首脳は集まるな?」
「夕方に始まる食事会に出席するために集まります。ま、まさか!?」
「可能性はある。現在の市政府はソフスコキ市長を始めとして皆魔界国家の傀儡政権。それを第三ユニットパーツを使って強襲し亡き者にすれば政権交代が起きる」
「でもそれじゃあただパルメクルが悪者になるだけじゃないの?」
その時、傍らで静かに俺達の話を聞いていたナナセさんが一言そう言った。たしかに彼女の言はもっともである。
「いや、不慮の落下事故に見せかければそうとも言えん。噂によると第三ユニットパーツは隕石に手足が生えたようなルックスをしているらしい。ありえるな……」
「ならどうしますーー。幸いにも政府首脳が集まるのは夕方。まだ少し対応する時間的余裕はありますけど」
「しかし、こっちはこっちで心配だ。もしかしたら最初の我々の予測通りここに落ちてくるかも知れんしな。だからと言ってただでさえ少ない人員を二つに分けるのもな……」
「なら私一人が対応に向かい駐屯軍の指揮を取りましょう。事態が予断を許さない以上、この件を公にするのもやむ終えないでしょう」
柴田さんは隊長に敬礼をしながらそう言う。その目はやる気に満ち溢れていた。
「しかしな柴田、お前はどうやって陸地に戻るのだ。船はこれしかないぞ」
「大丈夫ですよ。緊急用のゴムボートと発動機があります。私に任せて下さい」
「そうか。ならーー」
この隊長の一言で俺達の次の作戦が決まった。