第170話 海中迎撃計画
ボートはハルジル・タイプモォルホルドンが眠る海域へ向けて進んでいく。緊張感がみなぎる船内とは裏腹に空はとても晴れ渡っていた。正直、俺は今胃が痛い。これも一重に今回の作戦の重要性のせいなのだろう。
「ユキオス、ひとときの安らぎの気持ちを持ちながら聞いてくれ。第三ユニットパーツ接近時、まず俺がボートに積んだ魔式単装波動機関銃を使って弾幕を張る。もちろんお前は海中に潜んだ状況でだ。攻撃に驚いたユニットパーツはスピードを落とした状態で海中に落ちる。ここからが君の出番だ」
「爆雷槍を第三ユニットパーツに当てるんですね」
「そういうことだ。指揮制御パーツを失えばハルジル・タイプモォルホルドンはただの鉄屑になる」
隊長はニヤリと微笑みながらそう言った。この際、何気にカッコいい名称の魔式単装波動機関銃が何かなんてどうでもいい。要は当てるか当てないかだ。
「海中では油断するなよ。海の恐ろしさはまるで泳げない俺が一番知っている。ちなみに第三ユニットパーツ襲来はこれで伝える。耳に着けてくれ」
そう言いながら隊長は丸いイヤホンのようなものを取り出して俺に渡してきた。
「隊長、これはーー?」
「試作音声伝達機器オッーンッソッーン・プソフトトンだ。ちなみにこれは欧雅侍博士肝煎りの発明品だ。これを着けることで俺の声が君に聴こえるようになる」
「それはーー。すごいですね。しかし発音しにくい名称ですね。そこら辺、何とかならなかったんですか?」
「気にするな。ただし音声は一方通行だ。君の声は俺には聴こえない。それがたまに傷だが、まぁ、仕方ないだろう」
「それでも心強い機器ですね。なんとかやれそうな気がしてきました」
「ユキオス、『過信』には気を付けろ。とりあえずお前のバックには仲間がいることを忘れるなよ」
「まるで泳げない隊長に言われたくはないですね」
「フッ……。言うようになったな。それが成長であり正義というものだ。そうして俺達はーー」
「隊長、もうすぶ目的の海域です!」
ゴルヌス隊長のよくわからない長話に終止符を打つようにトレンゴフ・柴田は大声でそう言った。もうすぶって何やねんと柴田さんにツッコミを入れようと思ったのだが、ここは我慢だ。
「ユキオス君、ファイト。必ず無事で帰ってきてね」
「ナナセさんありがとう。貴女のために俺はガンバるよ」
こういう状況だからこそ乙女の一言は心強い。海の恐ろしさはきっとこのあと思い知ることになるのだろう。
しかし、その恐ろしさを乗り越える自信が俺にはあった。
***
陸を離れてから約三十分ほど経っただろうか。ボンズゴフの港町が小さく見える。ここは沖合い、ハルジル・タイプモォルホルドンが垂直落下した地点である。
「ユキオスさん、着きました。これから重り付きロープを下に降ろします。第三ユニットパーツ接近の知らせの後、それを伝って海中降下を実行してください」
柴田さんはゆっくりとロープの準備をしながらそう言った。
「この下に……。ハルジル・タイプモォルホルドンが?」
「音響探知機によればそのようです。迎撃準備が整い次第、暫しここで待機することになります」
「た、隊長、第三ユニットパーツは?」
「焦るなユキオス。焦りは不安を招きそれが恐れへと繋がる。あの伝説の戦士僧、セプツヌス・フォン・愛生の逸話を君は知ってるか?」
隊長はまるで全てを達観したかのような表情で俺に向かってそう言った。伝説の戦士僧セプツヌス・フォン・愛生ーー。内心、すごく気になる。
「何ですかその絶妙なネーミング。てか早く教えて下さいよ」
「今は作戦中だ。また後でな」
「はいっっっ!?」
いや、隊長それはないでしょう。自分から話題を振っておいて。
その時、俺は心の中で強くそう思った。