第169話 ヤポタンビーチの覚悟
「ユキオス君……。なんかごめんね」
不安そうな表情を浮かべながらナナセさんは俺にそう言った。
ここはボンズゴフ港ヤポタンビーチ。ハルジル・タイプモォルホルドンが落下した海域に一番近い場所である。今は彼女と二人っきり。隊長と柴田さんはボートを取りにいったまま戻ってきてない。
「心配いりませんよ。貴女にこんな危険な任務をやらせる訳にはいきません。まぁ、こうなるのはいつものことです、隊長は結局いつも俺任せなんですよ」
「でも要は落ちてくる最後のユニットパーツを海中攻撃するわけでしょ。危険じゃないの?」
「ただの槍じゃなくて隊長曰く制式名称は『六式特装爆雷装着型近接戦闘歩槍』らしいですよ。名前が長いのはおそらく隊長の好みです。投げた瞬間、ジェット推進システムが作動して目標物目掛けて飛んでいくみたいですよ」
「それを水中で投げるんでしょうーー。うまくいくの?」
「こどもの頃、おもちゃの槍を投げて遊んだことはあります。まぁ、結果を残せるように後はやるだけですよ」
内心、緊張はしている。一応、さっき隊長に特装爆雷槍の使い方を教えてもらったが百発百中とは必ずしもいかないだろう。
「私は貴方に頑張ってなんて言わないから。絶対に帰ってきてね」
「もちろんですよ。暗黒騎士じゃなくて貴女の騎士になりたい俺の心意気、見ててください」
然り気無い言葉の隅々に彼女への好意を散りばめながら俺は一言そう言った。目の前に広がる海はとても穏やかでまるで手作り和紙工房で作った手作り和紙のようなそんな雰囲気を前面に醸し出している。
それにしても隊長から渡された特殊海中スーツは着心地がすこぶる悪い。見た感じは普通の黒いウェットスーツなのだがまるで昆布を体に巻いてるかのような感触だ。これを着たまま海中に突入か……。考えただけでも胃が痛い。
ーーブゥゥゥーン……。
その時、何か遠くから発動機の音が聞こえてくる。
隊長と柴田さんだろうか。最初は遠目で小さく見えていたのが不思議なように思えるくらいにこちら側に近づいてきた。
「ユキオス準備は良いか?」
隊長はボートから身を乗り出しながら俺にそう言った。二人とも救命ベストを装着しており一目見た感じではまるで海の男である。
「良いですよ。どこまでやれるかはわかりませんが最善は尽くすつもりです」
「よし、君が居れば百人力だ。まずはこのボートに乗ってくれ。ハルジル・タイプモォルホルドンの真上にまで移動する。特装爆雷槍は威力絶大だ。当たれば大ダメージを与えることができるだろう」
「第三ユニットパーツの接近はある程度わかるんですよね?」
「『なんとなく』な。よし、乗れーー。ナナセさんはどうします?」
「私も同行します。最後まで間近で確認したいから」
「皆さん早く、行きますよーー!」
柴田さんの声に促されるようにしながら俺達はボートに乗った。