第166話 作戦と使命感①
謎の物体が落下してから約十分ほどが経過した。相変わらず辺りは何事もなく静寂が支配しているが、俺達の心はドキドキしている。これもひとえに隊長の口から出たパルメクルの新兵器説のせいだろう。
隊長が述べた名称は長くてイマイチぴんとこないがこれを放っておくとヤバそうだということは間違いなかった。
そしてその時、俺はある疑問を隊長にぶつけてみた。
「でも隊長は……。なんでここにいるんですか。農場は?」
「農場のことは心配しなくてもいい。腰痛から復帰したマチウス・町衣紋を臨時隊長職務代理執行者に任命してある。数日前、乙種魔界大土竜が農場敷地内で暴れだしてな。凶暴化した理由を調べた結果、ある特殊超音波が原因だということを欧雅侍博士が突き止めた」
「特殊電波……。ですか?」
「そうだ。博士は農級地底探査音響装置を駆使してその電波の発生源を追った。ここまで言えばもう把握できるな?」
「その原因が――。ハルジル・タイプモルォルドンだと……」
「そうだ。あれはおそらくかなり前からあの海域に潜んでいた。さっき落ちたのはハルジル・タイプモルォルドンの中位パーツだ。それがすでに埋没していた下位パーツと合体して作動した。特殊電波はその副産物ともいえるな」
隊長は鋭い視線を眼下に定めながらそう言った。
「その――。隊長、ハルジル・タイプモルォルドンの威力はそんなにヤバいのですか?」
「ヤツは簡単に言えば大きな爆弾のようなものだ。それも地中垂直爆発型の。ユキオス、これが意味することが分かるか?」
「まさか……。地盤沈下!?」
「そうだ、あの兵器の目的は意図的に地盤沈下をおこすということだ。ハルジル・タイプモルォルドンは完全に作動するとまず、海底を土竜のように突破してこのボンズゴフ港中心部の真下の地中まで到達する。その地中で爆発することによって意図的に地盤沈下を引き起こしこの港町を破壊させる。これが今、現実のものになりつつあるのだ!」
「ちょっと待って、隊長さん。そんな秘密兵器、どうやって止めるのよ――」
「方法はある。実はまだハルジル・タイプモルォルドンは完成していないのだ。指揮制御上位パーツがまだ来ていない。今、この場所が平穏なのが何よりの証拠だ。俺達はそれを破壊しこの街を守るのだ」
――ゴクッッ……。
あまりの責任の重さに武者震いがする。いつ飛来するかもわからない上位パーツを破壊することなんてできるのだろうか。仮にできるとしてもどうやって――。
「隊長、俺達だけでは荷が重いのでは?」
「もちろんそうだ。だからこれからボンズゴフに駐屯している魔界国家陸軍本部に向かう。あそこに知り合いがいるのでな」
その言葉を発した後、隊長は不敵な笑みを浮かべた。