第165話 ロングデイ。テイクアタック
『何か』が落ちた場所はおそらく沿岸地帯から数十キロほど離れた海域だろう。むしろこの場所にいたからこそ見えたと言っても過言ではない。しかし、何だろう、ここからでもわかるあの大きな水しぶきは物体の直径がかなりのものであるということがわかる。
「ナナセさん、望遠鏡持ってます?」
「持ってないわよ、そんなの。でも、何かしら、私達には関係ないでしょうけど」
「隕石とか?」
「その可能性もあるけど……。もしかしてパルメクルの新兵器とか?」
「し、しんへいき!?」
彼女の大胆な推論に思わず声が踊る。でももしそうなら明確な海峡条約違反並びに魔界国家に対する重大な挑発行為ということになる。
「ナナセさんは広域捜査官ですよね。ならボンズゴフの保安事案に介入はできないんですか?」
「もちろん可能よ。ボンズゴフも魔界国家中央会議本部庁舎ビルに旗を並べている明確な同盟都市だから。本国の司法警察権は十分及ぶ。でもね、今現在何か被害が出ているわけでもない、それでいてここの現地警察も動いてない、そんな状況下で私が強制力を行使して無理に行動したらここでの印象はすこぶる悪くなるでしょうね」
「なら……。様子見しかないですね。もしかしたら隕石かもしれないですし」
「ユキオス君、それは浅はかな答えだ」
「えっ……」
後ろからどっかで聞いた声が聞こえた。無論、これは夢幻ではないだろう。
そう、彼だ、隊長だ。ゴルヌス隊長が俺の後ろにいる……!
***
久しぶりに見た隊長はどこか痩せていた。ダイエットでもしたのだろうか。しかし、目だけはいつも以上にギラギラと輝いている。
「た、隊長――。どうしてここへ!?」
驚きからか声が若干震えてしまう。これもある意味宿命といえるのだろうか。たぶん。
「とりあえず野暮用とだけいっておこうか。農務視察団の件の報告は後でいい。今は『アレ』への対処を優先しよう」
隊長はそう言いながら地平線に向かってアゴをグイッと向けた。彼の言いたいことはなんとなく理解できる。
「まさか隊長は海に落ちたモノの正体を知っているのですか?」
「まだ結論を出すだけの確定事項が揃ってないが一つだけ言えるのはアレは無害な落下物などではない。パルメクルの試作新兵器、偽装秘密准機動級垂直落下特定地点制圧システム搭載型攻撃兵器ハルジル・タイプモルォルドンだ」
「ぎ、偽装秘密准機動級垂直落下型特定地点――。あぁ、隊長名前が長すぎで覚えられませんよ。てか、どっからその長ったらしい名称を仕入れていたんですか」
「あまり深く考えなくてもいい。最後ら辺はコードネームみたいなものだからな。とりあえずパルメクルに巣食う戦争誘発強硬派は密かにこの街を破壊する気だ。ユキオス、そして隣にいるお姉さん、協力してもらえるかな?」
「ナナセって呼んで下さい、隊長さん――。あなたが何者かイマイチよくわからないけど私はこの街を守りたいから」
「ありがとう。これで主役とヒロインは揃ったな」
俺の答えをあえて待たずに隊長はニヤリと微笑んだ。