第164話 空を超え膨らむ海上の彼方
「ナナセさん、その意味深な言葉何か良いですね。どういう意味なんですか?」
気になる、正直、気になるぞ。俺はその疑問を直接彼女に聞いてみることにした。
「あなたには感じとる素質があるということよ。この小屋の窓には霊的エネルギーが宿ってるらしいわ。それがわかるということは大したもんよ」
「はぁ……。よくわかりませんが了解です」
声に出しても言ったようにまったくよくわかってはないのだが彼女の言いたいことはなんとなくわかる。さすがパワースポットと言ったところか。それになんとなく目が覚めたような気がする。
たぶん。
「ナナセさん――。なんかありがとうございます。この丘の由来はまったく知らないままですが、なんか力をもらえたような気がします」
「こう言うときは思い込みが大事なの。込めば込むほど才能が開花するわ」
「あなたのセリフはまるで詩ですね。それも他人を元気付ける詩だ」
「何言ってるのよ。私とあなたは他人じゃないわ。想人よ」
「フッ――。そんなあなたの心配り、嫌いじゃありませんよ。むしろ好きです」
その言葉を聞いた瞬間、彼女がにこりと微笑んだ。きっと俺の意を読み取ったのだろう。
ちょうど、その時だった。
――ブイイイィィィィィィ……。
低く曇天のような低温が辺り一面に鳴り響く。一瞬、俺は何が起きたのかわからなかったのではあるが数秒後、その音の根本的な原因が空にあるのだと気がついた。
「ナナセさん、上です空の上、気をつけて!」
「えぇ……。でも何よいったい!?」
「わからない――。あっ、でもあれを見て!」
丘から見える海上の遥か彼方に大きな水しぶきが見えた。おそらく『何か』が落ちたのだろう。
「何かしら――」
「わかりません。でも、嫌な予感がします」
***
――時を同じくしてボンズゴフ港第三地区電探装備型特定沿岸防衛監視拠点。
「はぁ……。またか」
ロゼ中尉は大きくため息をついた。いったいこれで何回目なのだろうか。市防衛当局が電探を実験配備したのはいいがこうも誤報ばかりでは本当に困る。最初の内は未確認物体が海上防衛区域内に入ったという警報が出た瞬間、すぐに市内に駐屯している魔界国家陸軍本部に連絡を入れたのだが結果的にはそんなものは発見できなかった。これで終わったらいいのだがここ数日同じことが何回も起きている。その度に陸軍本部に連絡をいれる俺の身にもなってくれよといいたい。そうは言ってももう連絡すらもしていないのだが。
「中尉、陸軍本部に連絡を入れますか?」
「いれなくてもいい。どうせまた装置の不具合だろう。前に本部司令官のアルゴイ少佐に何と言われたと思う――。『ロゼ中尉、誤報を本部に伝えるのが君の任務か』だ。本当に勘弁してほしい。査定に悪影響が出たら大尉になれないじゃないか」
「中尉、では沿岸防衛砲台にはなんと?」
「誤報だと伝えておけ。警戒する必要はないとな。第三種警戒状態を継続。それに砲台運営管理部のセセップ中尉も早く帰りたいだろうし……。それにしてもこの電探、簡易点検じゃダメだな。今度、資材部のホレイユ中尉にも話しておこう」
「了解しました」
そう言い残してショトレ伍長は退室していった。さて、もうすぐ交代の時間だ。早く時間が過ぎてほしい。
その時、ロゼ中尉は思いもしなかった。この警報が誤報ではなかったということに。