第163話 ポルルカルコニッツァの丘
ボンズゴフ港中心部から十五分ほど歩くと周りの喧騒は身を潜め静かな公園地帯が見えてきた。ここはおそらく市民の憩いの場なのだろう。青々とした木々、溢れんばかりの緑の大地、そしてきちんと整備された道の先には大理石でつくられた白銀の記念碑のようなものが立っていた。
「ナナセさんあれは――」
「あれは講和条約締結記念碑。今から四十二年前に勃発したボンズゴフ・サルコニンスク資源戦争が終結した事を記念してつくられたものなの」
「ナナセさんサルコニンスクって……」
「国としては既に滅びてるわ。パルメクルに併合されてね。まぁ、ボンズゴフも魔界国家の覇権を認めてその同盟都市の一つになってるからある意味どっちも同じようなものだけど」
ナナセさんはどこか澄ましたような表情でそう言った。俺はサルコニンスクという地名は知ってるがそことこの港町が戦争をしていたことまでは知らなかった。
「結局のところ勝ち負けは関係ないのですね」
「大切なのは各陣営に物事の大局を見極める者がいるかどうかよ。残念なことにボンズゴフにもサルコニンスクにもその見極めができる人がいなかった。さて、話を戻しましょうか。ユキオス君、あの丘が見えるかしら?」
そう言いながらナナセさんは右上を指差す。そこには一際高い丘の上に立つ小さな建物のようなものがあった。
***
一見したところ『緑の植物に覆われた小屋』だろうか。ぱっと見たところでは何が何やらわからないがこれがナナセさんいわくパワースポットらしい。それにしてもここからの景色は絶景だ。見渡す限り海、海である。ここら辺はさすが港町と言ったところか。
「こ、ここが目的の場所ですか?」
「そう。ここがポルルカルコニッツァの丘一番の見所、ノボラの純愛小屋よ。詳しいことを話し出すと小一時間ほどかかるからここはあえて割愛するわ」
「はぁ……。そうですか」
いくら有名なパワースポットと言ってもその由来が分からないとパワーももらえないようなとも思ったのだが、それもまた一興。要は無限のモチベーションである。
「ほら、とりあえずここに手をあてて」
そう言いながら彼女は小屋の窓の様なものを指差す。そして俺は彼女に言われるがまま自分の手を当てた。正直、植物のつたがグルグルになっていて窓なのか何なのかがうまく判別できないが何かうっすらと感じるものがある。
なんだか――。暖かい。
「ユキオス君、何か感じるものがある?」
「そうですね……。あるようなないような――」
「えっ、本当に。もしそれが本当ならあなた才能があるわ」
「ハハハッ……。ナナセさん何の才能なんですか?」
「『この世界から醒める才能よ』」
彼女は意地悪そうなまるで小悪魔のような笑みを浮かべながら俺に一言そう言った。