第161話 知らせから始まる帰国
「え――。まもなく魔界国家領ボンズゴフ港。まもなく魔界国家領ボンズゴフ港。お降りのお客さま長旅お疲れさまでした。船が停まってから動いてくださいね――」
船長の直声が俺の夢の世界の時間に終わりをもたらせた。正直、もう少し寝ていたかったのだが、これも仕方のないことなのかもしれない。要は無限大の要領である。
「ユキオス君、着いたって」
すぐ横に座るナナセさんは腰を右へ左へと動かしながらそう言った。こうして長時間座ってると俺のような腰痛持ちにはツラい。たぶん彼女も腰が痛いのだろう。
「そう――。みたいだね。それにしても速い。来るときに乗ったフライゴールズ号の数倍は速い」
「同じ体勢でいるのはツラいけどね。上陸後はどうするの?」
「とりあえず職場に報告に向かうよ。ナナセさんは?」
「私も報告に向かうわ。だって使節団の目的を果たせなかったばかりか二人はカエル化、一人はどこにいるのか分からない。これは長文のレポートになりそうね」
「報告って中央農業試験研究所に?」
「いいえ、違うわ。あそこには出向しているだけだから。『魔王府首都警視庁特別広域捜査科のニコシマ警部』によ」
「ニコシマ警部……。ナナセさんは警察官なんですか!?」
「別に隠すつもりはなかったの。実はあなた以外の使節団メンバーはみんな特広捜の科員なのよね」
「そ、そうなんですか!?」
驚き、ただ驚きである。只者ではないと思っていたがまさかの事実である。
「ナナセさん達は何を追っているんですか?」
「これよ」
そう言うと彼女は胸ポケットから一枚の写真を取り出して俺に渡してきた。
「ナナセさんここに写ってる人は――?」
「コンスタニウス・フォンケルゲン・ケーニス博士。ダダスブルゴー航空宇宙技術設計局の上級研究員。今は姿を消してるけどね。彼には禁輸稀少鉱物ペグニスAWZの国外への違法取引容疑及び極秘機密開発情報漏洩の疑いで憲政守護法務局から身柄確保要請が出ているの。ここまで言えばもうわかるわよね?」
「ケーニス博士はパルメクルにいる……」
「そういうこと。彼はドミルセーエフ市動乱事件のどさくさに紛れて姿を消したわ。そしておそらくパルメクルで飛翔筒の開発及び研究をしている。残念なことに今回はその足取りの一端を伺い知ることができなかったけどね」
「たぶん博士はロバートさんと行動をともにしています」
「ロバートさん?」
「俺の元同僚でもあり世界を変えようとしている男です。今回のルルコニスタイン滞在でも現れました……」
もうすぐ船が着くというのに話はどんどん深みを増していく。その話に集中し過ぎたからか前に座っている一人の初老の男性の鋭い視線に気づくことができなかった。