第158話 エンジンとともに
「ユキオス君――。ねぇねぇちょっと起きて」
「えっ、あぁ……」
ナナセさんの声で俺は夢から覚める。どうやら寝てしまっていたらしい。カッコいいセリフを言っといて我ながら面目丸潰れである。
「ごめん、寝てました。もう着いたんですか……?」
「いや、違うの。洋上で船が止まったのよ」
「えっ!?」
驚きで一気に目が覚める。そう言えばエンジンの音が聴こえない。船窓から外を見ても陸地らしきものはない。これは――。もしかしたらかなりヤバイ状況なのかも知れない。
「立山立さんは?」
「さっき甲板に出てからそれっきりよ」
「……。心配だからちょっと見てくるよ」
ここでじっとしてても埒があかない。俺は席を立つと勢いよく甲板へと向かった。
***
甲板といってもたいして広くなく畳換算で約6畳ほどのスペースだ。そのほぼ中央にある半地下式の動力室で立山立さんが何やらごそごそしている。
「船長、トラブルですか?」
下を覗き込みながら俺は船長に声かけをおこなう。
「なんだ、若造か。面目ねぇな、エンジントラブルだ。つい先日船舶検査をしたのにもうこれだ。これじゃあ船元締めの夜詩夫兄貴に顔見せできねぇな」
船長は額に大粒の汗をかきながら俺にそう言う。その様子を見るとあまり良い状況ではなさそうだ。
「と、当分動き出しそうにないのですか?」
「接触具合次第だな……。おい、操舵席に置いてある道具箱とトォクンポウンニーを持って来てくれるか。ニッニロンポイントでいいからな!」
「ん――。はい!?」
道具箱は名称として分かるがトォクンポウンニーが分からない。ニッニロンポイントと言われたとしてもだ。
「船長、トォクンポウンニーってなんですか?」
「なんだお前そんなことも知らないのか。これだから新人は……。あれだ、とんがってるから見たらすぐわかる。ワシは見ての通り手が離せん。早くしてくれよ!」
「あぁ……。了解です」
新人とか言われても訳わかんねぇよ俺はただの乗客だぜと心の中で強く念じながらも今はこの船に動いてもらわないと困る。そう自分に言いきかした後、僕は船室へと戻った。
***
不安な顔をしているナナセさんに事情を説明したあとテクテクと操舵席へと向かう。俺とナナセさん以外の二人のお年寄りはぐっすりと寝ているようで首をコクリコクリと右へ左へと動かしている。
「これか――」
道具箱は操舵席に入ってすぐ見つかった。しかし肝心のトォクンポウンニーが見つからない。とんがってる部品はあるにはあるのだが三つもあったらさすがに悩む。
「出たとこ勝負ということか……。ならっ!」
こうなったら勘が頼りだ。俺は最初に見たとんがった部品を勢いよく取ると船長が待つ甲板へと向かった。