第157話 海に出て速やかに
鉢巻きおばさんからの追撃をかわし無事にルルコニスタイン港を魔界国家に向けて出発したのだが俺とナナセさんは『あること』が気になっていた……。
「ねぇ、この船――。速くない?」
ナナセさんの言うことはごもっともである。湾を出て外洋へと出た途端、かもめ号独身はみるみるうちに速力を上げて船にしてはかなりの速度で航行している。個人的な感じでは二十五ノットほど出ているような気がする。
「元魚雷挺乗りって言ってたからその癖が出てるんじゃないかな……」
「船長の立山立さんが?」
「うん。そうだけど。ちなみに軍功三等聖パレオギウニオス勲章を保持しているほどの上級者らしいよ」
「元魚雷挺乗りで勲章保持者ねぇ……。たしかに戦時の際は活躍しそうだけど――。まぁ、乗船して出航した以上はジタバタしても仕方がなさそうね」
「そうだね……。まぁ、早く帰れるならそれに越したことはたいよ、たぶん」
ナナセさんに対して時には敬語、時にはタメ口を使って話す俺。これはある意味、恋愛トーク術なのかも知れない。たぶん。
「そう。私的には安全に越したことはないんだけどね。でもこの小型船じゃあ無帰港航行は無理なんじゃないの?」
「船長いわく『六式増加燃料ブースターを積んでいるから安心しろ』とのことです。来たときに乗船したフライゴールズ号とは違って積み荷がないからその分速いんじゃないのでは」
「要は乗り心地よりスピードってことね。ならこの船のスピードも納得できるかも」
ふと他の乗船客を見てみると二人とも寝ているのか肩をガックリと落としている。
正直、船の乗り心地はそんなに良くはない。しかし今俺達が座っているフカフカの座席は案外……。いや、ずいぶん心地良い。このままではふと目をつむると夢の世界に旅立ってしまいそうだ。
「ナナセさんは少し休んで下さい。俺、見張ってますから!」
「えっ、ユキオス君いいの?」
「もちろん。フライゴールズ号での一件もありましたし油断は出来ません。何かあったらすぐに起こしますから!」
「なら――。お願いね、頼りにしているわ」
そう言ったあとナナセさんは目をつむった。もしここに薄い毛布さえあればとも思ったのだが、残念なことにこの船には薄い毛布を積んではいなかった。