第155話 帰国という名のドリーム
ルルコニスタイン港湾ビルで出国手続きをスムーズに済ませた後、俺とナナセさんは第一桟橋へと向かった。結局、なんだかよくわからない農務使節団ではあったがいろいろと判明したこともある。
その変わりに使節団の二人がカエル化してしまったが……。
「――。意外とスムーズに出国手続きが完了しましたね……」
「そうね、鉢巻きおばさんの追跡があった後だからなんか拍子抜けね。でもこれは幸運の女神様が私達に微笑んでくれてるってことかもね。さぁ、早く帰国しましょうよ!」
ナナセさんは俺の後ろに回って背中を押しながらそう言ってくる。彼女的にはほとほとここでの緊張感溢れる生活に嫌気が差したのだろう。まぁ、その点は俺も同じだが。
「乗船する船は――。かもめ四十一号独身……。第一桟橋の弐番乗場、ならもうすぐ着きますね」
「……。たぶんあの白い船ね。古そうだけど大丈夫かしら」
目の前には一層の小さな船が錨を下ろしている。いや、船というよりボートという言葉が合いそうな外観である。如何にも引退間近のようなその船のシルエットはちょっぴりドキドキものである。
「あの船――。大丈夫かしら。外洋を走れるの?」
「見かけじゃなくて中身で勝負なんじゃないですか。いや、たぶんそうですよ」
「てか船名のかもめ四十一号独身って何よ、独身なの?」
「船も結婚するような時代になったんじゃないんですか……」
いろいろと不安が残るが乗らないと魔界国家に帰れない。心にそう言いかけた俺は同じく不安そうな表情を浮かべているナナセさんと一緒にかもめ四十一号独身に乗船した。
***
船内もやっぱり白色で統一されている。さながら……。かもめホワイトといったところか。しかし、船内の壁をよく見るとヒビが入っていたり塗装がとれかかっている。横に掲げられている船内マップを見ると達筆書きで『乗員四十人』と書かれている。
「私達以外の客は――。いないの?」
座るなりナナセさんがひそひそ話のような消音でそう俺に聞いてくる。たしかに彼女の言うように客は今のところ俺達だけだ。
「なんだか……。嫌な予感がしない?」
「ここは気楽に構えていきましょう。病気や不運は気からっていいますし」
果たしてかもめ四十一号独身は本当に出航するのだろうか。
俺とナナセさんは内心とてもドキドキしながらもただその時を今か今かと待っていた。