第152話 帰国行動⑤
本当にナナセさんの言うようにおばさんが俺達をつけてきているのか……。半ば信じられないことではあるのだが彼女が何の意味もなく嘘をつくとも思えない。結局、尾行してきているという確証が得られるまでルルコニスタイン港湾ビルへ向かって歩こうということになったのだが――。
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「――。ほら、やっぱりよ。ユキオス君も何か感じないかしら?」
「うーん。そう言われるとそんな気もするような……」
たしかにナナセさんの言うように鉢巻きを頭に装備した角刈りのおばさんがずっと俺達の後ろをついてきている。でももしかしたら偶然の一致ということもあるわけで正直現時点ではこちら側から何らかの行動を移すことも出来ない。
「きっと人通りの少ないところで私達に攻撃を仕掛けようとしているのよ。さぁ、あなたの出番よ!」
コソコソ話っぽく俺にそう言ってくるのだが、不安を感じてるのかコソコソ話になっていない。どちらかと言えば普通会話である。
「あぁ――。わかりました。声かけをしてきます……」
数秒後、消極的ながらも俺は鉢巻き角刈りおばさんに先制会話を仕掛けることにした。
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「ふぅ……。ふぅ……」
鉢巻き角刈りおばさんとの距離が縮まる。ダメだ。俺の心の動揺が制御出来ない。鉢巻き角刈りおばさんを意識した途端にこれだ。ここまでのプレッシャーはニコライズ兄弟と対峙した時以来だ。向こうも俺のことを現場認識したのだろう。鋭い睨みをこちらへと向けている。
そんな状況下、仕掛けてきたのはおばさんの方からだった。
「息子達がお世話になったな」
一瞬の慟哭の後、おばさんは一言そう言った。その時、これまでの出来事が走馬灯のように蘇る。
まさか――。いや、まさか――!
「お、お名前を聞いてもいいですか?」
「あんたに主導権を渡す訳にはいかないよ。会話ってものわね、言葉と言葉のぶつかり合いさね。先に自分の名前を明かす訳にはいかないさね!」
「――!?」
あまりの衝撃に全身が震える。まさかこの瞬間を予期しさらに俺から話しかけるように仕向けていたというのか……。この事実からもおばさんが只者ではないことがよくわかる。
こうなった以上は俺も本気でいくしかない。
「……。お前の目的はなんだ?」
「それが年上の女性にかける言葉かいね。だから最近の若者は――。どうやらあんたにはお仕置きが必要のようだね!!」
その瞬間、おばさんは長々と頭に装備した鉢巻きを解き放ちまるでムチを振り回すかのような姿勢で俺に襲いかかってきた。