第151話 帰国行動④
フロントでチェックアウトを済ませてホテルを後にする。ホテル的には二人の客がカエル化したというのはかなりの大事件だと思うのだが、そこを敢えてスルーするということはカエル化の件はホテルスタッフも含めてみんなグルなのだろう。
不意にカエル化した二人が気になり腰全面に装備したポシェット・ポーチの内部を確認する。そこには案の定、元気なカエルが二匹、ゲコゲコと声を荒らげながら跳ね回っていた。
「ナナセさん、船のチケットはどこで手に入れるんですか?」
「たぶんルルコニスタイン港湾ビルに行けばいいんじゃないかな。私達はこれでも外交特権を一時的に付与されている存在なんだから一時的に有効な船券を発行してくれるはずよ」
「お金が掛からないのがとてもありがたいですね。とりあえず使節団としての役割が果たせない以上は一刻も早く帰国しないと――」
強い日射し、比較的暖かな季候。ふと横を見てみると通りの少し開けた場所ではバザールが開かれている。これだけを見るととても平和だ。
しかし――。
「そう言えばナナセさん、マゴ外務委員やグリーニン同志はもう現れないんですか?」
「さぁ――。もしかしたら今頃、さっきのアガットホテルに向かっているかもね。でも彼らと会ったところでめんどくさいだけだからさっさと退散しましょう」
素っ気なくそう言うナナセさん。その横顔はまるで砂漠の真ん中にあるオアシスのようだ。たぶん早く帰国したいのだろう。その華麗かつ俊敏な足さばきが少しずつ早足になってきているような気がする。
なんだかんだで俺達は目的を果たすことが出来ずにこれから帰国することになるのだが、これはこれでやむ終えないことだ。
「――。ユキオス君、ちょっと待った……」
「えっ……!」
彼女の一言に立ち止まる俺。その瞬間、全身に緊張が走る。
「誰かが私達を監視しているわ」
「……!?」
彼女が俺の耳元で囁いたのは驚くべき一言だった。
「な、なんでそう思うんですか?」
「アガットホテルを出た辺りから鉢巻きを頭に装備した五十代くらいのおばさんが私達の後ろをずっと歩いてきているのよ」
「えっナナセさん、『偶然』ってことはないんですか?」
「いや、それはないわ。だってそのおばさん、髪型が角刈りなのよ。恐らく――。かなりの手練れね」
「……!?」
衝撃の事実に愕然とする俺。もし彼女の言う通りなら、そのおばさんは外見上は気合いに満ち溢れているような感じなのだろう。しかし、勘が冴え渡っている俺の意識の外空間にいることができるということはかなりの上級者ということになる。
これは――。蓋を開ければ即戦闘ということか……!
「ナナセさん、どうしますか?」
「私、戦闘は出来ないから。あなたに任せるわ」
「えっ!?」
彼女の俺に放り投げたような感じの一言に動揺が走る。しかし、これは俺のカッコいいところをナナセさんに魅せることができる千載一遇のチャンスでもある。
これは気合いを入れて対応しなければ……!