第143話 マゴ外務委員の憂鬱~マゴ同志の視点編~
「まさかこんな時間に」
その時、私は交流館内にある自らの執務室でそう思った。先ほど農務使節団一行を追い払い中央からの命令を確実に遂行したかと思った途端これだ。
「お疲れのようですね」
後ろに控えているソ・ゴ政治将校は何やらタイプライターを叩きながら私に対して一言そう言った。
「もうすぐ中央から御偉いお方がここに来る。なんでも私に話があるそうだ」
「その御偉いお方……。誰なんですか?」
「人民を高みへと導く者。とでも形容しておこうか」
「ほぉ――。回りくどい言い方ですね。貴方らしい」
ソ・ゴ政治将校はタイプライターを打つ手を止め、不意に机の上に置かれたコーヒーをゴクリと飲み始めた。彼の落ち着きレベルは半端ない。だからこそ政治将校になれたのだろう。
「勇者を迎えた統一意思による人民主権行動戦線の成立。そして来るべき世界刷新に対抗する究極兵器の完成――。ですね」
「ソ・ゴ同志が言ってることが現実のものになるかは私達のこれからの行動次第です。まぁ、前向きにやっていきましょう」
――トントントン
その時、執務室のドアが軽くノックされる。どうやらあの御偉いお方やって来たらしい。
***
「本当に好き勝手言いますね」
『御偉いお方』が帰るなりソ・ゴ同志はため息をつきながらそう言った。私的にも同志の一言には同感である。
「もう二人はカエルになってるのに……。その事実を取引材料にしろとは――」
「だからこそなのかもしれませんね」
「ソ・ゴ同志、今の発言はどのようなニュアンスで述べられたのですか?」
「『駆け引きは駆けた物だけ飛翔する』ですよ」
「さすが同志、物事の例えがとても豊かですな」
途中から何の話をしてるのかよくわからなくなってきたが……。まぁ、それも時の理なのかもしれない。
「外務委員同志はアガットホテルに行かなくてもいいのですか?」
「今回の私の出番は終わっている。これから先の予定調和は未知数だ。あの男と御偉いお方が再び出会う時、物語は再び動き出すだろう」
「では同志、コーヒーでも入れましょうか?」
「いや、今回は私が豆から挽いて入れよう。楽しみにしといてくれ」
ソ・ゴ同志と話してると心が洗われる。おそらくお互いが好きなことを言ってるからだろう。
今宵の夜は長くなりそうだ。