第141話 ホテルで照れる①
グリーニン同志が手配したン・ゴスの間に向かう最中、俺はナナセさんのことばかり夢想していた。まさか女性と同じ部屋にお泊まりすることになるとは……。備え付けのベットは一つなのだろうか。もしそうなら――。胸の鼓動が止まらない。もうこの際、理事官(団長)やゴバルドーさんなんてどうでもよくなっていた。
「ユキオス君、怪しいとは思わない」
「えっ――。炒飯食べ放題の件ですか?」
「ユキオス君、炭水化物のことではないわ。なぜあれほどまでに私達使節団の合流を拒んでいたのに、ここに着いた途端、すんなりどうぞと言ったことよ。二人の身に何かあったのかも……」
真剣な顔で思案に耽るナナセさん。その表情もとても魅力的である。今の俺の気持ちをうまく例えると『具のないコロッケ』といったところか。
「正直、マゴ外務委員一派は何か企んでるわ。あのグリーニン同志も含めて。だから私はあなたと同じ部屋に泊まることにしたのよ」
「あぁ、そうなんですか……」
彼女が俺との相部屋を選択した理由には少しガッカリしたが、そこは男と女――。どうしよう……。愛が進展する予感しかしないぞ!
「とりあえず先に理事官達に会いに行きましょう」
「あぁ、わかりました」
***
トントン――。トントン――。
まるでモールス信号のような感じでナナセさんはドアをノックする。ここは理事官が泊まってると言われた部屋。すぐに出てくれば良いのだけれど……。
「出てこないわね」
「はい。もしかして先に夕食を食べに行ったのでは?」
「まだ五時過ぎよ。どれだけ炒飯を食べたいのよ。あっ……。開いてるわ」
「俺への愛が開いたのですか?」
「戯言はよしてよ。ドアノブが回る……。そう、鍵が掛かってないのよ。せっかくだから開けるわね!」
せっかくの使い方が間違ってるような――。と思いながらも俺はナナセさんの後ろで様子を伺う。
ガチャ……。
室内の明かりはついている。しかし肝心の理事官はその場にいない。
「どこにいったのかしら」
ナナセさんがそう言ったまさにその時だった。中央に置かれたテーブルの上に何かがいる。
あれは――。
「カエルのようね」
「はい、カエルです。でもなんで?」
「ユキオス君、まさか――!?」
その時、ナナセさんは驚きの仮説を口にしだした。
しかし、その時の俺は依然として『ナナセさんと同じ部屋に泊まれる』ということばかり考えていた。