第139話 マゴと名乗るその男③
運命のイタズラとも思えるコフブさんとの再会ではあったがなんとなく今自分達が置かれている状況が分かってきた。とりあえず確実なのはパルメクルでの農務視察は中止になり俺達農務視察団はここルルコニスタインで目的を失い宙ぶらりんの状態になっているということだ。コフブさん曰く『マゴ外務委員は危険』とのことだが……。
「ユキオスさん、もうすぐマゴ外務委員が戻ってきます。もしかしたら何か新しい提案などをしてくるかもしれませんが聞く耳をもってはなりません。今は風雲急を告げるパルメクルから出国することが何よりも先決です!」
「……。コフブさんわかりました。理事官達と合流し次第、魔界国家に帰ります。少々不本意ですが。ナナセさんもそれでいいですか?」
「えぇ、仕方がないわ」
「頼みますね。では私はここで失礼します。また後日農場に魔界伝書鳩を飛ばしますので!」
そう言い残してコフブさんはどこかへ行った。
***
「お待たせして申し訳ありません。いろいろとやらなければならないことがありまして……」
コフブさんが部屋を出てから約五分後、マゴ外務委員が部屋に戻ってきた。彼の横には見知らぬ男が立っている。
「マゴ外務委員殿、隣の人は?」
「彼はグリーニン同志。君達を今夜泊まるホテルに案内してくれる。魔界国家行きの船便は今日はもうなくてね。明日までここルルコニスタインでゆっくりしてください」
「その前に二人に会わせてもらえませんか?」
「あぁ、それが――。お二人は風呂を満喫した後、一足先にホテルへ向かいましたよ。かなりお疲れのようでしたので。さぁ、あなた方もぜひ」
薄ら笑いを浮かべながら彼はそう言う。コフブさんは奴等の提案には乗るなと言ってたが……。しかし今日の船便がないという以上はマゴ外務委員の提案に従うしか他に手はない。
「ホテルに行けば二人に会えるんですね?」
「えぇ、もちろん」
***
闇夜が支配する中を俺とナナセさん、そしてグリーニン同志は進む。正直、マゴ外務委員が連れてきたグリーニン同志だが……。怪しすぎる。目にはサングラス。そして口にはマスクを装備しておりその表情を伺い知ることはできない。
「グリーニン同志、なんで夜なのにサングラスをしているのですか?」
「プライバシー保護です」
「グリーニン同志、なんで口にマスクを装備しているのですか?」
「――。花粉症です」
「……。へぇ――」
ダメだ。少し会話をするだけでも彼の怪しさはうなぎ登りだ。会話をしようにもまるで話が続かない。
「ねぇ、グリーニン同志さん。首都に接近しつつある北部反乱軍のことは気にならないの?」
「パルメクル軍には星征宙勇者党を率いるロバート殿がいる。物事の分別もつかない反乱分子には容赦ない正義の鉄槌をくわえることだろう」
「――!?」
その時、俺は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。ロバートってまさか――。今宵の夜は長くなりそうだ。