農場外伝 病院の望定~入院中の町衣紋さんの視点編~
天井の白さが眩く感じる。最初は見るもの全てが新鮮だったのに今ではそれがありふれた日常へと変化していた。本当に『慣れ』とは不思議なものである。
病院の生活にも慣れた。
カロリー低めの食生活になり体重も痩せた。
あとはいつ腰の痛みが治るのを待つだけだった。
「……。入るわね、町衣紋さん」
静かに病室のドアが開く。そこには花瓶を持った可憐なリサさんが立っていた。
「リサさん――。今の俺はあなたにどう見えてますか?」
聞かずにはいられなかった。弟ニコライズが投げた石のせいにしているわけではない。ユキオスから手紙がきてから早数日。その間、再燃したびっくり腰は未だに快方に向かわないでいた。
「……。正直に言うわ。私、今のあなたのことが好きよ」
「――!?」
予想外の言葉に驚く俺。そんなことなどどこ聞く風のリサさんは然り気無く窓の外を眺めている。
「町衣紋さん。心の弱さの中に内面を見透す確信があるものよ」
「――!?」
リサさんのその言葉を聞いてハッとなる。そうだ、彼女の言う通りだ。俺は今自らに潜む内面の弱さに惑わされるあまり物事の本質を忘れてしまっていたようだ。
「リサさん。あなたって人は本当に魅力的ですね」
「よく言うわ。町衣紋さんのような物事の高みに昇る者にとってこんな些細な事象は想定内でしょう。あなたの腰の痛みが勇気になるわ」
「――!?」
正直、リサさんが何を言いたいのかよくわからない。しかしそんな彼女に入院している間中、助けられたのもまた事実である。
「リサさん……。売店で魔界新聞を買ってきてもらってもいいですか?」
「もう買ってきてるわ」
「センキューベリーマッチ。ありがとう」
以心伝心とはまさにこの事だろう。その時、新聞を読みたいという望みが定まり形となった。
「その言葉どこで覚えたの?」
「今パルメクルにいる友人からだ」
「フフッ……。ナイスね」
***
リサさんから受け取った魔界新聞をパラパラとめくる。まずスポーツ欄を見てから社会欄。そして国際欄を一通り読むのが今の俺の理論だ。
「ん――」
国際欄を読んでるときにある記事が俺の心に留まった。
「『パルメクルにて政変の可能性あり。北部国境に配備されている師団に慌ただしい動き』か……」
あまり大きな記事ではないがとても気になる内容だ。そもそもパルメクルは軍事強国。複数箇所に配備されている師団が演習などの名目で移動することくらいあるだろう。
しかし――。記事ではそれがパルメクル中央の政変と関連付けられている。たしか北部国境にはパルメクル屈指の知将にして大統領と対立している穏健派のパレオスレイドス将軍が指揮しているはずだが……。
「これは匂うな……」
「さすがね、町衣紋さん。今日の晩御飯は魔界イノシシのジビエ料理なの。食べると力が出るわよ」
「あっ、リサさん。今のは俺の一人言です」
然り気無い智のフォローに頭が下がる俺。しかし、その時の俺の直感は数日後、現実のものとなった。