第133話 時のある深化
「君には参ったよ」
数刻の沈黙の後、カルイス少佐はまるで苦い葉っぱを噛み砕くようにしながらその言葉を発した。どうやら彼に俺の言い分が伝わったようだ。
「少佐殿。なら……」
「あぁ、君の向こう見ずな態度の裏に隠された熱意、まことに見事だ。代わりの船を用意させよう。セニス船長も異論はないかね?」
「はい、もちろん。ユキオス君達にはいろいろとヤキモキさせてしまってすまないことをした。君達は君達の道を進んでくれ」
その時に船長が見せた微笑みがとても印象的だった。
***
「え――。ユキオス君あの頑固そうな少佐を説得したの!?」
食堂室にナナセさんの驚きの声が響き渡る。みんなに話した俺の活躍がよっぽど予想外だったのだろう。まぁ、こちら的には少々心外ではあるが。
「輸送巡洋艦マヌール・ファイツに搭載されている警備救難艇を貸してくれるみたいです。カルイス少佐が言うにはこの海域からならそれで十分らしいです」
「警備救難艇って……。何?」
ナナセさんは首を傾げながらそう言ってくる。
「簡単に言うと大きなボートです。これで広い広い外洋を航行するのは難しいけど沿岸程度なら大丈夫みたいな感じの。マヌール・ファイツはそもそもが独立輸送艦なので一隻ほどなら出しても良いとのことです」
「なら――。車は積めそうにないな」
「はい、理事官殿。残念ながらこの船に残して行くことになりそうです」
「状況が状況だから仕方ないな。しかし、なら車を管理する者が一人この船に残る必要があるな……」
「それについては問題ありません。ゼガニカさんが先ほど志願してくれました」
「なら話は早いな。どうやら硬直していた状況がようやく動き出しそうだな」
「はい、理事官殿。ちなみに代わりのボートは日の出と共に出発するそうです」
この船でまさかの心理的な足止めを食らってしまったがようやく目的地のルルコニスタイン港に行けそうだ。そしてそのあとはついに――。そう思うとついつい胸が踊ってしまう。
「夜明けまではもう少し時間があるな。ユキオス君よ、コーヒーでも飲むか?」
「そうですね。ちょうどここは食堂ですし。ナナセさんにゴバルドーさんもどうですか?」
「もちろん!」
「はい……」
寝るには遅く起きてるには早い時間帯を利用して俺達は小さな小さなコーヒーパーティーをすることにした。朝の日差しが出るのを心待ちにしながら。