第128話 悪いことは重なるもんだ
前方に見える国籍不明の巡洋艦は相変わらずこちらに接近してくる。ブリッジの下では船員四人が人質に取られており、身動きの出来ない状態が続いていた。この状況下で取るべき選択は――。おそらく俺や船長、そして船員が思っていることは一緒だろう。
「国籍不明艦からの応答は!?」
「短波無線を使ってありました。待ってください……。国籍不明艦からの応答は『直ちに全機関を停止して我が艦の指示に従え』とのこと!」
「助けてくれるのはありがたいが、少々上から目線だな――。まぁ、仕方がない。了解したと送れ」
「はっ、直ちに!」
数刻後、俺達が乗船している貨物船『フライゴールズ号』は全機関を停止した。
***
――ガチャ!
皆が待つ食堂室のドアを開ける。洋上を進む国籍不明艦と接触することになるのは船長曰く約二十分後。この時間を利用して俺は食堂室に戻ることにした。室内には不安そうな表情をしながらこちらを見つめる使節団の面々がいた。
「で、状況はどうだったの?」
「ナナセさんそれがいろいろと面倒なことになりまして……」
「面倒なこと――?」
「はい、どうやらこの船は海賊に襲われてまして……。それで――」
ここで俺は事の一部始終をみんなに伝えた。
***
「なぁ、海賊は甲板にまで来てしまってるんだな。そいつらは今どうしてるんだ?」
俺の話を聞き終えるなりゼガニカさんがそんな疑問を口にする。彼の言っていることはごもっともである。
「それが奴等……。国籍不明艦の接近に気がつくなり蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。この船に魚雷を撃ち込んだ小型艇も今では遠巻きに様子を窺ってるだけなんです」
「そいつら基本的に怪しすぎるな。謎の国籍不明の巡洋艦といい何か嫌な予感が……」
「きっと巡洋艦が怖くて海賊どもは逃げたのよ。みんなもっと前向きに考えようよ!」
「あっいや、ナナセさんそれもそうなんですが、実は一つ気になる点があるのです」
「気になる点?」
「えぇ、実は――」
――ドン!!
俺が話始めるより早く食堂室のドアが激しく開けられる。そこには呼吸が乱れた三等航海士のシュルツさんがいた。
「ユキオスさんちょっと来てくれますか。例の巡洋艦のことで船長が呼んでます」
「えっ、あぁ俺ですか……。わかりました」
「さぁ、早く早く!」
シュルツさんに急かされながら俺は操舵室へと急いだ。
***
操舵室に入るなり苦悶の表情を浮かべた船長が目に入る。その顔を見るにかなりの難題が降りかかっているのだろう。
「ユキオス君、いろいろと面倒なことになってしまった……」
「面倒なことですか。いったいどうしたんですか?」
「いや、たしかに都合が良すぎるとは思ったのだ。しかし、まさか――」
俺の問いに対して要領を得ない船長の返事が続く。
「船長、いったい何が?」
「海賊と巡洋艦は……」
「お話中のところ失礼する!」
「えっ!?」
船長と俺の言葉が重なる。そして二人が振り向いたその先には白い軍服を着て軍帽を目深に被った男が立っていた。