第120話 乗船前にて
ナナセさんと束の間のコーヒータイムを思う存分満喫した後、出港手続きを終えた理事官一行と合流した。理事官曰く『フライゴールズ号はもうすぐこの港に入港する』とのことだ。その後、俺達はエレニゾを貨物搬入取扱いセンターに預け乗船待機待合室に向かった。
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待合室内はたくさんの人でごった返している。ある者は寄港予定時刻を見ながら。またあるものはカバンに詰め込んだ書類を見ながら。
「ユキオス君、これが君のチケットだ。フライゴールズ号は客室に十分余裕のある大型船でね。我々の任務の重要性もあり一人一室、部屋を確保できた。君の部屋は二十四号室だ」
そう言いながら理事官はチケットを手渡してくる。そのチケットを俺はポケットの中に入れた。
「では、みんな――。船が来るまでしばらくここで待機だ」
「理事官……。それじゃあ俺は少し海の空気を吸ってきます」
いきなり横に座っていたゴバルドーさんがむくりと立ち上がったかと思うと然り気無い表情で一言そう言った。
「ゴバルドーさん、それは別に構わないが――。船はもうすぐここにやって来る。あまり長くならないように」
「はい――」
彼はそう言い残すと足早に待合室を出ていった。
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船を待つ間、使節団のメンバーは思い思いの事をしながら過ごしている。理事官はフレニス港湾管理次長と談笑中。ゼガニカさんは何やら車のカタログを熱心に見ている。そしてゴバルドーさんは外へ空気を吸いに……。最後に俺は――。
「ふ――ん。ユキオスさんは料理が得意なんだ!」
「はい。とくに魔界大根入り炒飯には自信があります。あっ……。炒飯と言えば!」
俺とナナセさんの会話は盛り上がり留まることを知らない。まるでお互いがお互いの事を前から知っているようだ。
「そう言えばパルメクルの郷土料理はとても美味しいのよ。緊張をはらむ旅にはなるでしょうけど私的には出てくる料理がとても楽しみなの」
ニコニコしながらナナセさんはそう言う。彼女が料理の話ばかりするせいかなんだか俺もお腹が減ってきたぞ……」
「ナナセさんはパルメクルに行った事があるんですか?」
「私の父が昔パルメクルの領事館に勤めていてね。料理の事は父からの請け負いなの」
「そうなんですか――」
昔話をするナナセさんはどこか楽しげだった。
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「あっ――!」
ぼんやりと待合室の窓を眺めていたナナセさんがそう言う。その声を聞いて俺も窓を見た。
「ナ、ナナセさん、あれが……」
「そう。あれが私達がこれから乗ることになるフライゴールズ号よ!」
俺達の視線の先には巨大な船、貨物船フライゴールズ号がちょうど錨をおろす作業をしていた。