第119話 語らい
ボンズゴフの町並みを横目で見ながら俺達とエレニゾは町の奥へと向かう。しばらく進むと辺りが大きく開けてきて、港湾地帯が見えてきた。
「理事官殿、町の規模にしては港の範囲が大きくないですか?」
「ここは最近になって西部方面魔王府直轄第二級貿易拠点指定を受けていてな。港湾地帯には船舶修繕ドッグも備えた本格的な港として機能しつつある。では、ゼガニカ君ハンドルを右にとってくれ。港湾ビルへと向かい乗船手続きをしないといけないからな」
「わかりました」
淡々とした口調でゼガニカ君はそう言った。
***
手続きへと向かった三人と暫し別れ、俺とナナセさんは車に残った。理事官曰く『貨物船に車を載せる手続きに時間がかかるかも』だそうだ。
「ユキオスさんは船旅は初めてかしら?」
「そうですね――。基本的に農場で勤務してますから……」
「船酔いには十分気を付けてくださいね。あれほど手強いものはありませんから」
「船酔い――。パルメクルまでの海路は荒れているのですか?」
「荒れてますね。ゾ・ジ・ボボジ海峡を越えますから。でも、私達が乗るフライゴールズ号は魔王府統合規格船舶令基準適応船。基準排水量二万を超える大型船だから安心して。たぶんそんなに揺れないわ」
「そ、それは――。嬉しいですね」
ナナセさんの魅力的な微笑みに心を許しながらも僕は一言彼女にそう言った。
「ここだけの話だけど……。パルメクルのベルゴニサス将軍には気を付けて」
「ベルゴニサス将軍――。俺達の使節団とどのような関係が……?」
「将軍とは恐らく大統領府で会うことになるわ。彼はパルメクルきっての名将でゼゴー大統領の親衛隊を指揮する立場にもあるの。油断ならない人物だから気をつけてね」
「そ、それは怖いですね――。気を付けます」
ゼゴー大統領にベルゴニサス将軍――。そしてパルメクルで暗躍するロバートさん率いる勇者迎合派。これは油断することができないぞ。
「コーヒー飲むかしら?」
「えっ――!?」
ナナセさんからの突然の申し出にドキドキする俺。まさかこの場所でコーヒーを飲むことができるなんて……。
「港湾ビルの近くにオススメのコーヒーショップがあるの。ここのサンドイッチもとてもおいしいのよ。もうしばらく理事官達は帰ってこないでしょうから私達だけで少し先に休憩しましょう」
「そ、それは嬉しいですね――。ぜひ行きましょう」
ナナセさんの申し出に僕は喜んで従うことにした。出港予定時間まであと約二時間ほど。まだ見ぬフライゴールズ号に胸をときめかせながら俺とナナセさんはコーヒーショップへと向かった。