第10話 農場にて③~道中編~
食堂を後にして俺は自室へと向かった。二階の隅っこに俺の部屋はある。大きさは四畳半くらいだろうか。これから考えを張り巡らさないといけない難題を思うと頭が痛くなる。とりあえず魔王軍第109輸送大隊が怪しい。もし魔界大根の横流し疑惑が本当なら彼らを告発しないといけない。でもいったい誰に言えば良いのだろうか。もちろん隊長とフランソワ上級大佐には伝えるのだが、それだけでいいのだろうか。本来なら司法局にも俺から一報を伝えるべきだろう。でも……。疲れている頭をフル回転するがなかなか結論がでない。よし、何も考えずにとりあえず寝よう。ベットによこになった途端、俺は夢の世界へと旅立った。
次の朝、俺は素早く朝食をとった後、出荷場へと向かった。宿舎から徒歩十分ほどの距離にある出荷場へは歩いて向かう。
道中、地獄大根を満載したリヤカーが行ったり来たりしている。農場ゴブリンはとても働き者で俺達の期待によく応えてくれる。彼らは基本的には季節雇用制になっていて、出荷の時期といった比較的仕事が忙しい時などに近郊のゴブリン村から来てもらっていたりする。
「おや、ユキオスさんじゃないですか。今日は出荷場に出勤するの?」
不意にリーダーゴブリンのアントニウスに話しかけられた。彼は魔王農林水産協会主催の魔界大根生産販売検定準二級に合格した期待の秀才であり、現場監督を任されている。彼の目は魔界大根に対する好奇心で輝きに満ち溢れていて、皆は尊敬の念をもって彼に接している。
「やぁアントニウスさんお疲れさまです。いや、たまには出荷現場も見ないといけなくてね。隊長命令なんだよ」
「へぇ~。そうなんだぁ。ユキオスさんもやることが多くて大変そうだね。頑張ってね」
「大変なのはお互い様だよ。一緒により良い大根を作ろうよ」
何気ない会話が数分ほど続く。その時、俺はあることを閃いた。――現場監督である彼の協力を仰げないか――と。
「アントニウスさん。少し俺に協力してもらえないかな?」
「協力ですか? なんでも言ってくださいよ」
その時の俺は気づかなかった。
彼の目が怪しく光ったのを。