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農場外伝 ため息混じりの天井~町衣紋さんの視点編~

「はぁ……」

 こんな心境で天井を見上げるようになってから何日が立ったのだろうか。ニコライズが投げた石が腰に当たったせいで俺は今、病室のベットの上にいる。正直、石が当たった時はこんな状態になるとは予想だにしていなかった。


「うっ……」

 少しでも体を動かすと腰に痛みが走る。病院の先生が処方してくれた痛み止のおかげで最初の時に比べると痛みは和らいだが、それでも痛いものは痛い。いったいいつになれば退院できるのだろうか……。


「町衣紋さん、お体の具合はどうですか?」

 そんな声と同時に看護師さんが入ってきた。俺の担当をしている看護師のリサさんはとてもステキな女性で彼女が病室内に入るだけでその空間だけが楽園のようになる。


「リサさん、貴女あなたの存在が今の俺の支えです」


「そんな大袈裟な……。早く腰を治して退院してくださいね」

 リサさんはそう言いながら机の上に置かれた花瓶の花を変えてくれる。そんなさりげのない気遣いや優しさが俺の心を癒してくれる。


「リサさん……。俺の悩み聞いてもらえませんか?」


「それはできないわね」


「――!?」

 まさかの彼女の返答にドキドキする。なぜなら俺の予想していた返答とは違ったからだ。彼女の優しさだけが今の俺の支えだったのに……。


「だって私が今、貴方の悩みを聞いたら貴方はそれ以上前に進めなくなると思うから。貴方の可能性はこんなもんじゃないはずよ。今はただ傷を癒すことだけを考えなさい」


「――!?」

 これがうわべだけではない真の優しさというものなのか……。いや、正確に表現するなら慈しみの心とでも言うのか。何にしてもリサさんが言った言葉が俺の胸に燦然と輝くハートに静かなる灯火ともしびを宿した。


「町衣紋さん、あなた今行きたい場所があるわね」


「……。リサさんよくお気づきですね。実は昨日、俺の元に同僚のユキオスから手紙が来たのです。詳しくは農務機密事項なので語ることができませんが――」


「貴方も加わりたいのでしょう?」


「まさかそこまでお見通しとは……」


「女の勘ほど鋭いものはないわ。でもそれは危険なことでもあるんでしょ?」


「そうですね。しかし、俺の力を必要としている人がいるのもまた事実なのです」


「なら尚更なおさら、退院を許可することはできないわ。患者を危険な場所に行かすことなんて私にはできないわ」

 リサさんはテキパキとそう言うと病室を出ようとする。その後ろ姿はなんだかとても寂しいものがある。


「待ってください!」


「――!?」

 俺の言葉を聞いたあと、彼女はピタリと歩みを止めた。


「リサさん、貴女の勝ちです。俺は腰痛が治るまで安静にしています」


「そう言うと思ってたわ」


「えっ――。な、なぜですか?」


「さっきも言ったでしょ。女の勘ほど鋭いものはないってね……!」


「――!?」

 リサさんが病室を去ったあと、俺はもう一度天井を見つめる。その場にはもうため息混じりの世界ではなくなっていた。


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