第104話 心理戦は奥深い
「町衣紋に石を投げ入れたニコライズはきっと今三階におる。三階に向かうぞ!」
学長の指示が飛ぶ。しかし、その時、俺にある疑問が浮かんだ。『もしかするとこれも陽動ではないのか』と。
「学長待ってください。これも罠ではないのでしょうか。ここは裏の裏をかきましょう!」
「裏の裏……。ユキオスそれはどういう意味だ?」
「町衣紋さん聞いてください。恐らくニコライズは再び二階に舞い戻って来るはずです。奴の心理戦の術中にはまってはいけません」
「うむ、そうか。ならユキオスの案を採用しここで待ち伏せるぞ!」
一瞬、考えた末に学長はそう判断した。
***
空いている部屋に隠れて約二十分が立った。未だにニコライズが来る様子はない。もしかすと、奴もこちらの様子を伺ってるのだろうか。そうなってくるとこれは意地の張り合いになってくる。
「ユキオス、本当に奴はここにやって来るのか……。来ないんじゃないのか?」
しびれを切らした町衣紋さんが俺にそう言ってくる。そう言われてみるとなんだか俺も不安になってくる。
その時だ。
――トットットッ……。
誰かが階段を降りてくる。
「皆さん誰かが降りてきます……!」
きっと奴だ。ニコライズだ。ここで勝負を決めてやる。そう意気込んだ俺は折れた槍を構えて突撃体勢に入った。
「皆さんお揃いのようですな!」
その瞬間、ニコライズの声がアパートメントの廊下にこだました。
「あなた方が俺をつけていたのは了解済みだ。しかし捕らえたユキオスが奪還されたのは少々計算外だが……。まぁいいさ。皆さん出てきてくれ、話し合いといこうではないか!」
ニコライズは陽気な口調で俺達に対してそう言った
。
「ふっ――。俺の腰にダメージを与えといて何を今更……」
「町衣紋さんどうしますか……?」
「奴が心理戦を仕掛けているのを忘れるな。学長、超空気圧縮パンチの準備はできてますか……?」
「いや、ダメじゃ町衣紋。室内は空気濃度が薄い。通常攻撃しかできん」
「そ、そうですか。実はこう暗いと俺の攻撃も難しい。結論を言うとユキオスお前だけが頼りだ」
「えっ……!?」
いや、二人ともそれを知りながら敵地に潜入したのかよ。てか、俺の武器は折れた槍だぜ。そんなに期待しないでくれよ。
その時、俺はそんなことを強く脳裏に思い描いた。
「出てこないのか。ならこちらの提案を一方的に述べさせてもらう。これが最後だ、仲間になれ。待遇はとても良いものを用意するとロバート殿も確約してくれてるぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は走り出した。ここで勝負を決めてやる……!
ドッッ――。
「ぐっ……」
ニコライズの脇腹を折れた短い槍が貫く。手応えはある。
「こ、これがお前達の答えか……?」
「もちろんだ。お前達の企みに荷担する気はない。それにニコライズよ、お前もここで終わりだ……!」
「交渉決裂か……。残念だよ。後悔するぞ!」
その瞬間、ニコライズの表情が変わった。