幻想現代異界物語・図書館都市譚
今日も暇である、曇ったり日差しを垣間見せたり微妙なお天気日和。
夢見がファンシーで奇妙な心地のまま、俺は友人のカヤの家に行った。
彼女は居なかった、家の人には会わなかった。
そのまま裏手の小規模な庭に行く。
本当になんてこと無い、四畳半くらいのイメージの庭と思ってもらって構わない。
いや小さく言い過ぎた、まあ、本当におまけのような感じの庭ともいえない空間に、その塔はある。
まあ、塔なんて立派な呼び名は俺達だけのもの。
見た目は二階の高さで、内部で鉄はしごが通って上が砦のようになっている、雨の日でも安心だ。
そこにアレがある。
上に登りきり、コンパクトに過ぎる、ミニチュアのような五段収納棚、ノートくらいしか入れられないモノを空ける。
交換日記のような、情報共有&交換ノート。
わざわざこのノートでやり取りする必要が無い、って大人なら思うだろうな、子供にしか分からない味よ。
『カヤへ。
バーカーバーカー! お尻ペンペン!
俺は世界の覇者だ! お前なんて怖くないぞぉ! ばーーーーーーか!!
ごめん、調子乗った、でも謝りません、てへ☆
今日は寂しい気分です、もしよかったら遊んでください。
このノートをもし見たら、商業都市の宝石店あたりに来たら、俺がいるかもよ。』
勢いだけで書いて見直す。
書き直そうと一バチ思ったが、メンドウと思ってこのまま所定の場所に戻す。
砦窓から外を見る、なんてことない、二階から家と街路が見えるくらいで特に絶景でも何でもない。
俺は梯子で下に降りて、ノートに書いたとおり商業都市に向った。
「通していただける?」
びっくりするくらいの美人だ、ありゃ選ばれ人ってやつよ。
選ばれし者は、そう、問うたので、もちろんしりぞく。
俺は宝石店に到着していた。
怪しげな雰囲気で薄暗かったら、もう魔女の工房か何かだと初見で思うね。
ここで売ってるのは宝石、付随する属性は菓子、飴。
つまりは”宝石飴”と呼ばれる意味がちょっと掴みかねるモノ。
見た目も素晴らしくて、それだけでもいいのに、なぜか飴としても楽しめる。
ちなみに食べると、ただの飴なんて比じゃないくらい美味だから、なんか怪しげな秘術の匂いがプンプンする。
とにかく、そんな胡散臭い店だ、俺は嫌いじゃないがね、一般的に好かれるかどうかは、微妙な天秤だ。
俺は適当に品定めをしながら、冷やかしじゃない、先ほどの美人さんを鑑賞観察していた。
パッと見とくに普通だが、全体的に黒で統一された感じは、よく見ると特異だなと気づいた。
顔は二重丸、スタイルは黒の外装で覆われて良く判別がつかないが、顔からして太ってはないだろうと。
チラチラ変質者か変体者のように見えないように眺めていた。
その時になって、ようやく俺は、自分が少女、カヤの冷たい視線に射抜かれていることを感じた。
なぜ、あんな所に、ずっと居たのだろうか、割と広い中規模店で、影から影にずっと見ていたのだろうか? こわ。
そして奴、他の客の通行を邪魔していたことに気がついたか、影から押し出されるようにまろびでて、俺と目が合う。
ズンズン近づいて、一声。
「あによ」
「あ、ああ、すまん」
俺は脇へ退いた、彼女が道を通るかのように隅の方に。
「ありがとう」
少女カヤは軽やかに進み、そして無表情で戻ってきた。
「ちょっと、そうじゃなくてさ」
「うん、なにさ?」
「さっきから、あそこにいる美人さん、見てたでしょ? どういうつもりなのよ?
あんたさ、ああいうあざといくらいミステリアスで、大人ぶった女が好みなの?」
「まあ、そうだね、好みかと聞かれたら、好みといわざるおえない、なんか惹かれるモノあるし」
「ふーん、ふーん、まあいいけど。
それじゃさ、この機会に聞くけど、わたしなんてどうよ?」
「ううん」
カヤを眺める。
カヤは俺に対する性格とは裏腹で、見た目は素直そうで純っぽい明るい感じだ。
正直に劣情を催すレベルの乙な女だと思うね、想像では何度も喘がせて泣かせて鳴かせている。
だからといって、はいそうですと認めるには、なんか負けた気分が邪魔していえない。
これは彼女と俺の関係性が、勝ち気負けん気を駆り立て刺激し、感情を常時高ぶらせるからだろう。
「うん、あんまり好みとはいえないね、ごめんなさい」
「はあ! なんで私が振られたみたいになってんの!
くっそおぉ! この一生童貞キモオタデブ糞みそカス社会のゴミがぁ!!!
分際を知れよぉ! お前はわたしを好き好き言ってぇ、、うぅ、愛でてりゃいいんだぁごにょごにゅ」
最後のほうが低ヴォリューム過ぎて聞こえない。
ちなみに店内は割と広いので、ヒステリックに叫んでも大丈夫なほどでないが、店員が来るほどじゃなかった、ようだ。
「ごめんごめん、あ、そうだ、髪が長いのは好みだよぉ」
「髪? 長い?」
カヤは自分の膝下くらいまである、それは長い長いシルクのような質感の髪を手元に引き寄せる。
「この髪を、弄びたいの?」
「うーーん、欲望のままに」
「最低ぇ!!」
なんかビンタされた、普通に痛い、そしてカヤは思いっきり身を翻して店を出て行ってしまった。
まったく、からかうていうか苛めるっていうか、ソフトセクハラで一々逃げられるとは、メンドウな。
俺は店を出た。
そして件の美女も、同タイミングで店を出ていた。
店内で見た時よりも光のコントラストか照明効果か優美に、俺はその横を通り過ぎた。
───漆黒の髪が、カヤを連想させる、俺の瞳を惹きつける。
カヤという少女も、将来はあんな感じになるのか。
そう思うと、なぜだか胸の内が熱くなって、後にさきほどカヤが最低と断じたように下半身が、、。
俺は、胸の高さに宝石を持って、しばし鑑賞する女性を、女性が退去するまで、ジッと指をくわえる感じで見ていることにした。
風流というか、不審者というか。
こちらに向けて吹いた緑の風に、女性の香が混じってる感じがした。
それに、祝福を感じながら、受けながら。
店先で待ち伏せして、俺の行動の一々をつぶさに観察していた少女が歩んでくる。
カヤさんだ、帰ったと思っていたのに。
「ちょっと、あなたを矯正したいから、面貸してくれない?」
カヤを見ていて、ふと女性の方を見ると。
何時の間に、逆の路地裏に歩み、後姿はベールに包まれるかのように、居なくなってしまっていた。
「風がようとして、静けさを伝えない」
「いた」
「あなた、名前は?」
「俺は俺だ」
「そう、問われた意味が分からなかったのね。
そんな気がしていた。
下を見なさい」
少女は緑の風が吹く中、俺をどこかに落とした。
「片桐イツキ、これから貴方を矯正します」
「、、、、、、、、、、、、」
俺は、そう、呟いた、音が響かない空間で、少女カヤには、俺の返答が聞こえたろうか……。