混沌的な存在と化け物‐絶対混沌と化け物
「人間を動かすのは不安、その上の恐怖による、己の命の危機的状況だ」
一人呟く。
ならば、私のような絶対的存在は、どうやって不安を感じ、ソレを増大増幅して生きる活力にできるだろうか?
絶対なのだから不安など無い?
いや違う、絶対は絶対でも恐怖を感じないというのとイコールではないのだ。
絶対的な存在は、その絶対故に、それを崩す未知の不確定要素を無限に無上に恐れるのだ、私がそうなのだからこれは確定的だ。
「この世界には、確固たるリソースの限界がある」
絶対者は絶対故に、世界の限界も知っている。
存在とは、世界の限界値でしか存在できない。
世界という概念、それをどれだけ広く深く思念として持てるか、それが存在の容量を絶対的に決定付けるのだから。
「私は私自身の根源、混沌の世界を無限大に知っている」
そして、絶対者とはイコールで、ある世界、という思念そのものな存在なのだ、それが私だ。
私の存在は無限大、だから消滅はありえない、絶対に有るモノを消すことはできない。
だが、もしかしたら、ありえるかもしれない消滅の可能性、それを捨てきれずにいる。
その可能性とは色々あるが、第一に上位世界の存在可能性。
私は私を超える上位の世界が在れば、存在を保て無くなる、当然だ、下位世界は上位世界の一部でしかなく、場合によってはそれですらない。
他にも沢山あるが、明確に言語説明できるのはコレだろう。
とにかく、私は不安だ、常に恐怖している、自身の命の危機的な状況下。
これを克服することは不可能であり、克服するべきでもないのだろう、不安の無い世界では、存在は生きれないだろうから。
漆黒の風のように通り過ぎる。
ばっさばっさと、鮮烈にグロテスクな効果音が響き渡る洞穴内で、私は駆ける。
化け物同士の戦いに意味は無い、対面したから殺しあうだけ、ただそれだけの事象。
「はぁーあ」
手ごたえの無い感覚、切り裂きの感触に嘆息する。
苦痛に呻く訳でもない敵、ただ血に滾る本能のみに従う正真正銘の愚者としての化け物。
だが私は違うようだ、化け物でも理性はあるほう。
だから残念に思う、別に苦痛じゃないが、本能を効率的に満たし快楽を貪りたい。
それが賢い化け物の在り方だろう、苦痛の果てに、それに耐え切れ無くなり人間をやめたのだ、その代償としての対価は当然あってしかるべきだろうと思う。
「さて、今度は、何処に行こうかなぁー」
刀身までもが闇色の、日本刀のような獲物を見つめながら一人ごちた。
町に戻る中途で、変な奴にあった。
ゴロツキが若者を集団で襲っていた、町端の真ん中で何やってるんだ、切り殺してやろうかと思って鞘を構えたときだ。
銀色の剣筋が荒れて、沢山の肉片が飛び散り、辺り一面に盛大に四散した。
私は適当にそれをステップで交わして、自然な動作で若者、剣の振りの直後っぽいソイツに切りかかった。
相手は剣の振り後の硬直状態だ、確実にやれると思ったその刹那、若者は神速での切り上げで殺刃を防いでくれた。
青銅の剣と刀が弾き合い、私はその勢いのまま後方に浮遊、その後なんなく地面に一切の不安定や隙なく着地した。
「なんだお前は、死にたがりか?」
目つきの悪すぎる奴は、剣の切っ先をこちらに向けながら、挑発的で飄々とした感じに言ってきた。
「殺したがりだよ」
それだけ言って、刀の能力”混沌”を発動する。
これは自らの存在が、今までどれほど破綻的だったかで効力総量が決まる魔具の能力。
もちろん破滅的な私の人生と、この能力の相性はピカイチ、私の存在は飛躍的に次元を向上させた。
普段は内包し表に出ない、更なる狂気と魔性に身が震える、そして目の前の敵を葬れるだろう実感に感動が止め処なく溢れる。
「くだらねぇ、お前のような奴は、俺の哲学的に死ぬべきだな」
若者が何か言っているが知らない、私が既に風よりも早く急速接近、切り掛かるタイミングでの口上だった。
上段から飛びつくように振り下した刀を、難なく防いでいた奴の剣は、ひたすらに白の光を放っていた。
即座に危険と判断した、瞬間的に魔法剣特有の何かが投射され、私も闇で対応、相殺させつつ又距離をとる。
「秩序か、だったら尚更、きっちり殺してあげないといけません」
「それは俺からも言えることだな、混沌の輩は、殊更殺し甲斐があるってモノだ」
相手の素性を知れたことで、更に感じる罪悪が加速する。
それに舌なめずりし、背筋に快感が走り抜けつつも、またも低姿勢から敵に向かって疾駆する。
客観的に状況を見て、相手も私を抹殺できることに舌なめずりし、己の死をまったく確信していないようだ。
滑稽だろう、しかし得てして化け物はそういうモノなんだろう、私だってそうだ。
でも、残念、貴方では、到底私に届く筈もない、なぜなら。
「そう、貴方はただ単純に純粋に、弱い」
接近中に放たれた光球は相殺、攻撃力に特化した斬撃は受けずに交わす、スピードに勝る私はこの戦闘において圧倒的に優位。
それが分からない、のか知れないが、あっけなく心臓を刺し貫き、血しぶきを浴びる私が居た。
血濡れの私を、左右から挟みこむように腕が伸びてきた、咄嗟にしゃがんで避ける。
どうやらコイツ、秩序の力で肉体再生できるよう、だが、私の闇の刃の侵食で、それが上手く作用しないようだと判断、捻って完全に心臓を破壊して距離をとった。
大量の出血によって血を失い、重要機関の欠損、更に闇の侵食による再生力の不足、多分もう止めを刺さずとも死ねる頃合。
案の定直ぐに呻くように叫び、剣を持って突撃してくる、どうやら苦し紛れの攻撃、もう先は長くないと悟ったのかな?
「なら、介錯してあげないと」
交錯の瞬間、一瞬制動、敵の鈍重な攻撃は空振り、私の攻撃のみが敵を横切る。
勢いそのままお互いを駆け抜け、私の後方で首なし死体が倒れふす音がした。
刀が闇の色を強めたような気がした。
相手は秩序的な存在、どれほどのクラスか分からないが、更に私の存在としての罪深さを上げたのは確実だ。
「世界の安定を保とうなんて、生温い事してるから、弱いんだよ、なりふり構わず何でもして、強くならないとね」
スパッと切られて、醜い恥ずかしいだけの醜態を晒す生首に、そう言ってあげた。
その顔は見れたものじゃないくらい、良くいい感じに歪んでいる。
「あっはっは、愉快ゆかい、こういう人、また殺したいなぁー」
能力発動中は分からなかったが、混沌を纏わないと、まだまだ罪悪感はあるらしく、身がひたすらに震えて快感に悶えた。
刀を鞘に納めて、スタスタ勢い良く助走をつけて生首を蹴り飛ばして破裂空中四散させた。




