Ⅳ
「最初はね、宮本なんて嫌いだったのよ。 ガサツで乱暴で、私の事女の子扱いしてくれないし、馬鹿にするし。 なんでこんなやつと……って何度思ったか」
私は必死で言葉を繋いでいた。だから、枯れ木だったはずの桜にぽつぽつと蕾が付いて行ったことに全く気付いてはいなかった。
「それがいつの間にか、仲良くなって。 最初は兄弟みたいに、じゃれあってるだけで良かった。 でも段々、それだけじゃ足りなくなって。 あいつが誰か他の人と話してるとなんかもやもやってしちゃうし、私だけに見せる表情とかを見つけては、心の中でめちゃくちゃ喜んでた」
そこで私は、言葉を切っていつしか零れだしていた涙を拭った。
「これが……初恋、って言うんだよね」
その瞬間、桜の木の蕾が一つ、花開いた。
「気が付いたらいつも、宮本のことを目で探す様になってた。 こっそり見てはどきどきして、今日はいつ話しかけてくれるのかなってわくわくしてた。 何事にもあんまりやる気なかった私がちょっと積極的になれたのも、宮本にカッコ悪いところ見られたくないって思ったからだし。 全然興味無かったおしゃれとかも、して見ようかなって気になった。 私、ちょっとずつ変わって行ったんだよ」
私が話すにつれ、桜の蕾は次々に開花していった。
「誰よりも近くで、一緒に笑ってたかった。 いつまでも一緒に、馬鹿なこと言ってたかった。 私は……私は宮本が、好きなの!」
私は桜に向かって、心の底から思いを叫んだ。その声はまるで、桜に力を与えるかの様に最後の蕾を開かせ……。桜は今、満開に咲き誇った。
「でも……私には告白する勇気なんて無かった。 進展しようが無い状況がもどかしかったはずなのに、今を壊すのが怖かった。 別に恋人で無くても良いから、ずっと宮本の側にいれたらそれで良い、そう思ってた」
はらりと私の頬に、何かが落ちた。それは……散り始めた桜の花びらだった。
「でもそれも、全部私の独りよがりだったんだね。 ずっと宮本のこと、見てたはずだったのに。 彼女が出来たことにも気づかないなんて、私はやっぱり……」
桜は徐々に、徐々にその花びらを失っていく。
「もう宮本の彼女にはなれないんだ……って気づいた瞬間、何か、全部虚しくなっちゃったんだ。 宮本は何にも悪くないのに、自分が何もしなかったせいなのに、もう顔も見たくないって思っちゃったし。 一番に馴れないなら優しくなんてしないで欲しいのに、私なんか心配してこんなところまで来てくれるし……」
堪えきれなくなった涙が、つーっと頬を伝った。
「好きだったよ、宮本……」
その瞬間、突如強い風が私たちに向かって吹いた。
――桜が……!
青い風が、桜の花びらを連れ去って行く。それはまるで舞うように、歌うように。
「綺麗……」
「初恋は、儚いからこそ美しいんだ」
思わず見とれた私に、そう言ったのはずっと黙って私の告白を聞いてくれていた男だった。
「初恋……」
その言葉を噛みしめる様に、私は散り行く桜を見た。
「美しい恋だったよ、舞」
「そう……なの?」
「ああ。 きっと君にも、そう思える時が来る」
「そうだと良いな」
私はふふっと、枯れ木に戻った桜に笑い掛けた。
「もう涙も乾いたね。 じゃあ僕は、そろそろ帰るよ」
「帰るって……どこへ?」
私が聞くと、男は当然の様に桜の幹をとんとんと叩いた。
「この桜の向こう側、かな」
「……ふーん」
信じている様な信じていない様な私の返事にも、男は笑ってこう返した。
「君も、そろそろ帰らないと。 友達が待ってるよ」
「……え?」
男の声に振り返ると、こちらに向かって歩いてくる二人の姿が見えた。
「春菜、陽子……!」
「じゃあね、舞」
「あ……!」
はっと後ろを向くと、男はもうそこにはいなかった。
――お礼も言えなかった。
私は背中に二人の声を聞きつつ、もう一度桜を見上げた。
「……また会えるかな」
暖かい風が、枯葉をゆっくりと揺らしていた。
ありがとうございました。
最初はもっとファンタジーな感じにする予定だったのに、気付いたら中途半端に……。荒削りこの上ない小説を最後まで読んで下さって本当にありがとうございます。
良ければ感想・アドバイス等お願いしますm(__)m




