Ⅲ
「……」
「……」
「……腕、もう離してよ」
「……悪い」
「……」
「……」
成り行きで家まで送って貰うことになった私は、宮本ととぼとぼと自宅に向かって歩いていた。
「……部活中なんじゃないの?」
「……今日は自主練だから、大丈夫」
「……」
「……」
――き、気まずい。
教室とは打って変わって、宮本との間には何の会話も無く。私は息をすることすら遠慮して、唇を噛みしめていた。
「……でさ、何してたんだよ」
「……え」
突然宮本が立ち止まって、そう聞いてきたので私は振り向いて彼を見つめた。
「何って……携帯探しに」
「お前な、あそこがどこか知ってるのかよ」
「……え?」
意味が分からず、私は宮本に聞き返した。
「あそこが何なの?」
「だから、その……」
何故か口ごもる宮本。それが余計に、私の知りたい欲を駆り立てた。
「何かあるの、あそこ?」
「――と、とにかくあんまあそこには近づくなよ!」
「何でよ!? そこまで言ったんだから教えてよ!」
「嫌だ」
「……!」
せっかく普段通りの会話が出来そうだったのに、宮本は急に冷たくそう言い放った。
――何なのよ、もう……。
もやもやしたまま、結局私は家まで宮本に送って貰ってしまった。その間、私たちは何も言葉を交わすことは無かった。そして私は……また、鬱々とした気分に沈んで行った。
「おっはよー、舞」
「おはよー」
「舞、おはよー!」
出来るだけ普段と同じ様に振る舞おうとした私に、二人の親友はどこかほっとした様な表情を見せた。
「で、携帯どこにあったの?」
「んー。 桜公園」
「ええ!?」
「まじで!?」
桜公園と言っただけで湧き立つ二人に、私は首を傾げた。
「何かあるの? 桜公園って」
「その……」
言い淀む陽子に、春菜がずばっと言った。
「あそこ、有名な告白スポットなんだって」
「……なるほど」
じわじわと状況が飲みこめてきた私は、丁度教室に入って来た宮本にちらりと視線を向けた。
「……」
「……」
昨日のことに触れることもなく、すっと視線を逸らして席に着く宮本に私もそっと目を伏せた。
――これじゃ、昨日と一緒だ。
目をそっと手で覆って、私は皮肉に笑った。
――私は……何がしたいの?
昨日、あの男に言われた言葉が。寝ようにも寝つけず、何度も脳裏を過っては打ち消した言葉が、また口をついて出そうになる。
――私は……。
気付けば私は、またあの公園に向かっていた。本当なら告白スポットなんて、近づきたくも無いはずだった。しかし、何故か私は、そこに行かなければならない気がしていたのだった。
「やあ、また来てくれたね」
「……こんにちは」
今日も今日とて、男は一人でその公園にいた。
「……いつもここにいるの?」
おずおずと切り出した私に、男はにっこりと笑って言った。
「そうだよ。 僕はこの桜が咲くのを、ずっと待ってるんだ」
「桜……?」
私は男の後ろにある大きな木を見上げながら、訝しげに聞いた。四月の初旬ともなれば、桜はすでに咲いているか、少なくとも蕾を付けているはずだった。しかしその木は、そのどちらでも無かった。
――気づかなかった……。 こんなところに、桜があるなんて。
「ふふ。 枯葉しか無くても、桜は桜だよ」
「……はあ」
まるで私の考えを読んだかの様な男の声に、私はただそう言うしか無かった。
――てか、ここ桜公園って名前なのに……。
「ここには、この枯れ木以外に桜は無いよ」
「……へええ」
引き攣った笑みを浮かべる私に、男はその桜の幹をとんとんと叩きながら私に聞いた。
「今日は、どうしてここに来たんだい?」
「それは……」
「君の性格なら、酷いことを言った僕の顔なんて見たくも無いって言うと思ってたよ」
「べ、別にあなたに会いに来たわけじゃないから!」
「ふーん。 まあ、どっちでも良いけどね」
呆れた顔をしつつ、私に問うた。
「逃げない覚悟は、出来た?」
「……うん」
静かに頷いた私に、男はパチンと手を鳴らした。
「な、何?」
「この公園には僕達以外、誰も入って来ない。 これで安心出来るだろ?」
――あんた一体、何なの……?
「僕はそう、桜の精とでも言っておこうか」
――……。
「君も知っているだろう。 この公園では、いくつものドラマが繰り広げられてきた」
「あ……」
――あそこ、有名な告白スポットなんだって。
「この桜はずっと、ここに立ってそれら全てを見て来たんだ。 君も、話してくれるかい?」
枯葉だらけのその木は、しかし幹が太く本当に何年間もここに立っているのだと感じさせるには十分だった。ごつごつした肌に触れている右手から、木の生命力が伝わってくる様で。私は深呼吸して息を整えると、ゆっくりと語り出した。




